なぜ、あなたの提案は通らないのか?『ロジカル・プレゼンテーション』に学ぶ戦略コンサルの「提案の技術」
「自分では完璧だと思った提案が、上司や顧客にあっさり突き返された」「議論は盛り上がったはずなのに、結局何も決まらなかった」
そんな経験に心当たりがあるビジネスパーソンは多いのではないでしょうか。
本書『ロジカル・プレゼンテーション』は、そうした「提案が通らない」悩みを解決するための実践的な教科書です。著者は戦略コンサルティングファーム出身の高田貴久氏。本書は、単なる話し方や資料の作り方ではなく、「正しく考え(=論理思考・仮説検証)」、「正しく伝える(=会議設計・資料作成)」という、ビジネスマンに必須の4つの能力を「提案」という切り口で体系化しています。
この記事では、忙しいビジネスパーソンのために、なぜあなたの提案が通らないのか、その原因と具体的な解決策を、本書の核心的なエッセンスと事例を交えながら分かりやすく解説します。
本書の要点
- 「提案の技術」は両輪: 提案とは、「正しく考える」能力と「正しく伝える」能力の両輪で成り立っている。どちらが欠けても提案は通らない。
- 論理とは「縦」と「横」: 論理的とは「縦の論理(因果関係)」と「横の論理(網羅性)」がつながっていること。相手の「本当にそうなの?」「それだけなの?」という2つの疑問を封じ込める技術である。
- 論理だけでは不十分: 正論を振りかざすだけでは人は動かない。相手の疑問(論点)を正確に捉え、答えを導き出す「仮説検証力」が不可欠。
- 会議は「設計」するもの: 提案が伝えられる「会議」は、その場の雰囲気や勢いで進めてはならない。「着地点(位置づけ)」と「着地スタイル(相手)」を明確に設計する必要がある。
- 資料は「シンプル」が鉄則: 優れた資料は「一目で理解でき、誰にも誤解されない」。そのためには「不要な情報・文字・装飾」を徹底的に捨てる勇気が求められる。
なぜ、あなたの「優れたプラン」は消えていくのか?
本書は衝撃的な問いかけから始まります。
「提案の技術スキル」がないゆえに、どれほど多くの「優れたプラン」が具現化されることなく消えていったことか。
著者によれば、「論理的に考え、問題が解決できても、それを相手にうまく伝えられなければ意味がない」し、逆に「プレゼンテーションがうまくできても、話す中身がなければ意味がない」のです。
多くのビジネスマンが陥りがちなのが、このどちらか一方に偏ってしまうことです。ロジックは完璧でも独りよがりな提案になったり、口は達者でも中身がなかったり。
本書の強みは、この「考える技術」と「伝える技術」を、京都のメーカーに勤める中山さんと、コンサルタントの戸崎さんが新規事業立ち上げに奮闘する具体的なビジネスストーリーを通じて、バランスよく学べる点にあります。
相手の反応は2つだけ:「本当にそうなの?」「それだけなの?」
提案が通らない時、相手が抱く疑問は、突き詰めれば次の2種類しかないと著者は断言します。
- 「本当にそうなの?」 (縦の論理への疑問)
- 「それだけなの?」 (横の論理への疑問)
「縦の論理」とは因果関係のことです。「AだからB」というつながりが明確かどうか。
本書のストーリーで、コンサルタントの戸崎さんは「これからは売上向上システムです」と提案しますが、メーカーの技術部長は「なぜコスト削減システムではないのか?」と反論します。これは、戸崎さんの頭の中にあった「(コスト削減はもう限界だから)」「(上賀茂製作所の強みはハードだから)」という前提条件が相手に伝わっておらず、縦の論理がつながらなかった典型例です。
縦の論理がつながらない原因は、主に「前提条件のちがい」「異質なものの同質化(例:小売業と一括りにする)」「偶然の必然化(例:絶対に売れる)」の3つです。
一方、「横の論理」とは網羅性(MECE)のことです。「全体を漏れなくダブりなくカバーできているか」どうか。
ストーリーの中で、戸崎さんが「顧客に提供する価値は“知的楽しさ”です」と提案した際、別の事業部長から「それ以外の楽しさ(例:映画館のような臨場感)もあるのでは?」と指摘されます。これは横の論理に「漏れ」があった例です。
MECEは言うは易く行うは難しですが、本書では「言葉のレベル感をそろえる(視点と切り口を合わせる)」ことや「6次元で発想する」といった具体的なテクニックが紹介されています。
あなたの提案が「本当にそうなの?」「それだけなの?」と突っ込まれる隙がないか、この2つの視点でセルフチェックするだけでも、提案の質は格段に上がります。
論理思考だけではダメ。相手の「疑問」に答える仮説検証力
第2章で完璧な論理を組めるようになっても、それだけでは提案は通りません。なぜなら、論理的に正しいこと(正論)と、相手が納得することは別問題だからです。
本書のハイライトとも言えるのが、第3章の「仮説検証力」です。
ストーリーの中で、戸崎さんは完璧な事業計画(と彼は思っていた)を宮里社長に最終報告します。しかし、社長の反応は険しいものでした。
「今の説明を聞いてると、タリックスという会社と提携することが決まったみたいな話になっとるけど。そんなところまで話は進んでるんやったかな?」
戸崎さんは「タリックス社と提携すること」を前提に、具体的なプランを論理的に説明していました。しかし、宮里社長の本当の疑問(=論点)は、「そもそも、なぜ提携が必要なのか?」「なぜ、提携相手がタリックス社なのか?」という、もっと手前の部分にあったのです。
相手の疑問に答えていない提案は、どんなに論理的でも「屁理屈」にしか聞こえません。
こうした「論点ズレ」を防ぎ、効率的に相手を納得させる技術が「仮説検証」です。本書では、非効率な「絨毯爆撃(全部調べる)」や、説得力のない「根拠なき断言(勘で言う)」を避けるため、以下の5ステップを踏むことを推奨しています。
仮説検証の5ステップ
- 目的の理解:
このコミュニケーションの目的は何か。相手に「意思判断」を求めているのか、「単に聞いてもらう」だけか。ビジネスの場では、多くの場合「意思判断を求める」ことが目的です。 - 論点の把握:
相手の疑問は何か。具体的には「相手の意思判断に影響をおよぼす判断項目」は何かを見極めます。 - 仮説の構築:
論点に対する「ヤマカンの答え」を立てます。これは単なるあてずっぽうではなく、限られた情報から導き出す「最も確からしい仮の答え」です。 - 検証の実施:
仮説が正しいかを証明します。ここで必要なのが「正しい論理」と「動かぬ証拠(ファクト)」です。ファクトには強弱があり、「定量×一次×第三者情報」が最強であるといったテクニックも紹介されています。 - 示唆の抽出:
検証結果から結論を導きます。しかし、ビジネスの世界で完璧な「答え」が出せることは稀です。そこで重要なのが「示唆(論点を絞り込むために役に立つ情報)」を抽出することです。例えば「競合は赤字か?」という問いに答えられなくても、「競合の営業利益は過去3年伸びている(=無理はしていない)」という示唆は出せるのです。
会議と資料:「伝える」ための設計図
どんなに素晴らしい中身(論理と仮説)ができても、それを伝える「場(会議)」と「武器(資料)」が稚拙では、提案は通りません。
会議設計力:会議は「設計」するもの
本書のストーリーで、中山さんたちはタリックス社との初回交渉に臨みます。相手は副社長をはじめとする経営陣。しかし中山さんたちは、自社が説明したい「具体的な事業内容」ばかりを一方的に話してしまいます。
結果は惨敗。相手が知りたかったのは、「なぜ上賀茂製作所と提携するのか」「どれくらい本気なのか」「経営的なメリットは何か」という、もっと上位の概念でした。
これは、会議の「設計」ができていなかった典型例です。会議を成功させるには、次の2つが重要だと著者は説きます。
- 着地点の設計:
その会議の「位置づけ」(キックオフか、中間報告か、最終決定か)を明確にし、必要な「インプット(事前情報)」と目指すべき「アウトプット(結論)」を管理します。 - 着地スタイルの設計:
相手に合わせてスタイルを変えます。相手は「読む人(資料重視)」か「聞く人(説明重視)」か。「全体観派(横の論理重視)」か「芋蔓派(縦の論理重視)」か。「トップダウン派(結論から)」か「ボトムアップ派(経緯から)」か。これを見誤ると、相手はストレスを感じ、提案は頭に入ってきません。
資料作成力:「一目で理解でき、誰にも誤解されない」
会議で使う「武器」が資料です。著者が提示する資料作成の鉄則は、「一目で理解でき、誰にも誤解されない」ことです。
シンプルさと網羅性という二律背反を両立させるため、本書では「三つを捨てる」勇気を持つようアドバイスしています。
- 不要な情報(コンテンツ)を捨てる:
「参考」や「補足資料」は、あなたの不安の表れです。論理が明確なら不要なはずです。 - 不要な文字を捨てる:
冗長な表現を削り、メッセージを「クリスタライズ(結晶化)」させます。 - 不要な属性情報(装飾)を捨てる:
過度な色分け、影、複雑な図形は、読み手の理解を妨げる「ノイズ」です。
また、資料は「メッセージ」「チャート」「スライド」「パッケージ」「マテリアル」というモジュール(部品)として捉え、効率的かつ論理的に組み上げる方法が具体的に解説されています。
まとめ:提案とは「通らないものを通す」技術
本書のストーリーで、上賀茂製作所の宮里社長は、提案が通らず落ち込む中山さんにこう語りかけます。
「提案言うのはな、通らへんものを頑張って通すところに価値があるんや。すんなり通るんやったら、誰も苦労せえへん。」
提案が通らないことを、相手の理解力や環境のせいにしていては、ビジネスマンとしての成長はありません。
『ロジカル・プレゼンテーション』は、提案が通らない原因を「技術」の不足として捉え、その技術を体系的に、そして具体的に教えてくれる羅針盤のような一冊です。「考える力」と「伝える力」を本気で鍛えたいすべてのビジネスパーソンに、強くお勧めします。







