『人に優しく、自分に甘く』に学ぶ、頑張りすぎなビジネスパーソンが「競争」から降りて楽になる宇宙法則
「もっと頑張れ」「他人より抜きん出ろ」——。そんなプレッシャーに疲弊していませんか?
本書『人に優しく、自分に甘く』は、作家・小林正観氏が説く、「努力」や「成功」を目指すのとは全く異なる生き方の指南書です。
「人生はすべて自分が書いたシナリオどおり」「悩みは“比べあい”から生まれる」といった宇宙法則に基づき、いかに「楽に楽しく」生きるかを説いています。この記事では、特に忙しいビジネスパーソンに向けて、職場の人間関係やキャリアの悩みがふっと軽くなるエッセンスを、書籍の具体的なエピソードと共に解説します。
本書の要点
- 人生はすべて、生まれる前に自分が書いたシナリオどおりに進んでおり、過去の選択はすべて正しかった。
- 「不幸」という認識は、通信や放送が発達し、他人と「比べること」があたり前になった結果、広がったものである。
- 不平不満や愚痴(五戒)を言わずにいると、人から「頼まれごと」をされるようになり、それを淡々とこなすことが自分の天命(使命)につながっていく。
- 人間関係の悩みは、相手を変えようとするから苦しい。相手の存在をそのまま認め、自分が「気にならない人」になることで解決する。
- 「ありがとう」という言葉には不思議な力があり、心を込めなくても数多く口にすることで、人生に楽しい奇跡が起こり始める。
はじめに:「頑張れ」に疲れたあなたへ
私たちビジネスパーソンは、「成果を出せ」「競争に勝て」「成功を目指せ」という価値観の中で日々奮闘しています。昇進、給与、評価——。常に誰かと比べられ、自分でも誰かと比べてしまう。それが当たり前の世界です。
しかし、その結果として「悩み」や「苦しみ」を抱えているとしたら?
著者の小林正観氏は、精神分析の祖・フロイトの言葉を引き合いに出します。
幸・不幸を論ずる人は、我々の時代以前にはほとんどいなかった。…(中略)…通信や放送が発達したために、ほかの人がどのように生きているかがわかり始め、「比べること」があたり前になった。
その結果、不幸という認識が広がった。他人と「比べること」が不幸の源かもしれない。
私たちは、「比べること」「競うこと」「争うこと」を“教育”の名のもとで教え込まれてきました。
もし、今のあなたが「頑張る」ことに疲れ、人間関係に悩み、漠然とした生きづらさを感じているなら、それはあなたが「成功」や「他人より抜きん出ること」を目指しすぎているからかもしれません。
本書は、「努力しろ」「頑張れ」とは全く逆の方向性、「人に優しく、自分に甘く」生きることを提案しています。
衝撃の事実?「人生はすべて、自分が書いたシナリオどおり」
本書の根底にある、最も衝撃的で、同時に最も心を楽にしてくれる考え方がこれです。
「どうも私たちは、自分の人生を、生まれるときから死ぬときまで、すべて事細かにシナリオに書いてきたらしいのです」
著者自身、唯物論者だったため、この結論をすぐには受け入れられなかったと言います。しかし、40年にもわたる超常現象などの研究や、自身の人生(父親に家を追い出された結果、旅行作家になった経緯など)を振り返り、すべてが予定通りに起きていたとしか思えない、という確信に至りました。
これがもし事実だとしたら、私たちの悩みや不安は、その瞬間に意味を失います。
- 「あの時、別の会社に転職していれば…」
- 「あのプロジェクトで、違う判断をすべきだった…」
こうした過去への後悔は、一切不要になります。なぜなら、すべての選択、すべての判断が、その時々にベストなものであり、自分が書いたシナリオどおりだったからです。
同様に、未来への心配も無意味になります。どうせシナリオどおりに進むのですから、「右を選んだら幸せになるか、左を選んだら不幸になるか」と悩む必要はありません。
選びたい方を選べばよく、選んだものが必ず自分のシナリオなのです。
では、私たちは何も考えずに生きればよいのでしょうか?
著者は、「たった一つ考えていることがある」と言います。
それは、「念を入れて生きる」こと。
「念」という字は、「今」の「心」と書きます。
「今」の「心」とは、今、目の前にいる人を大事にし、今、目の前のことを大事にすること。それだけです。
過去を悔やまず、未来を心配せず、ただ「今、目の前のこと」に集中する。
これは、マインドフルネスの考え方にも通じる、現代のビジネスパーソンにとっても非常に重要な示唆ではないでしょうか。
職場の人間関係が変わる「相手を変える必要はない」という発想
「どうしても、あの人のやり方が許せない」
「なぜ、夫(妻、上司、部下)は変わってくれないんだ」
人間関係の悩みは尽きません。私たちは、自分の価値観に合わない人を、どうにかして変えようと努力し、苦しみます。
著者のもとに、長年夫を否定してきたという奥さんが相談に来た際のエピソードがあります。彼女は「夫を変えるためには、まず、自分が変わることなんですね」と納得したように言いました。
しかし、著者の答えは違いました。
「それは、大きな誤解です。私は『夫を変えるためには、自分が変わらなくちゃいけない』なんて一言も言っていません。『夫を変える必要がないんだ』ということを言っています」
相手を変えるために自分が変わったとして、もし相手が変わらなかったら、さらにイライラが募るだけです。
著者が提案する解決策は、「その人の存在を全部認めてしまいなさい」ということ。
つまり、相手を変えるのではなく、自分が「気にならない人」になるのです。
多くの人は、自分の価値観の中に相手を連れてこようとして苦しむのですが、その人の良いところも悪いところも踏まえた上で、そのまますべて受け入れてしまえばいい。
これは、人格者になれという精神論ではありません。
イライラしなくなれば、誰よりも自分自身が一番ラクになる。
これを著者は「究極の損得勘定」と呼んでいます。
あなたの職場にいる「気に入らないあの人」も、もしかしたら「自分の心を広げ、寛容度を上げるために、人生のシナリオに自分で用意してきた存在」なのかもしれません。
キャリアの答えは「頼まれごと」にある
「自分のキャリアパスが見えない」
「何を目標にすればいいかわからない」
私たちは「目標を持つこと」「達成すること」が価値あることだと教えられてきました。しかし、著者は「達成目標や努力目標なんて全部投げ捨てちゃってかまわない」と言い切ります。
では、何をすればよいのか?
それは、「いかに頼まれごとをするか」です。
その第一歩が、「三禁五戒」の実践です。
- 五戒:不平不満・愚痴・泣き言・悪口・文句
- 三禁:う・に・の(恨み・憎しみ・呪い)
まず、この「五戒」を口にしない生活を数ヶ月続けると、不思議なことに、周りから「頼まれごと」が始まるようになります。
不平不満を言わない人は「頼みやすい人」になります。
その「頼まれごと」を、「はい、はい」と淡々とやっていく。
頼まれごとがあったときに、もう不平不満・愚痴・泣き言・悪口・文句を言わないという状態になっているわけですから、多分、断ることはないでしょう。体が空いていたら(時間が空いていたら)引き受ける。空いていなければ引き受けない。それだけです。
「頼まれごと」を続けていくと、3年ほどして、自分が特定の方向で使われていることに気がつきます。
「どうも、私の“使命”はこの辺にあるらしい」
それが「立命(天命に気づく)の瞬間」です。
「喜ばれる存在になること」を目的として、「頼まれごと」をやっていけば、結果として会社の売上が上がったり、昇進したりすることはあっても構わない。
しかし、目指すべきは「結果」ではなく、「喜ばれること」そのものなのです。
どうしたら売上を上げられるか、と考える前に、「どうしたらお客様に(同僚に、上司に)喜んでもらえるか」を考える。
キャリアに悩んだ時、この視点は大きなヒントになるはずです。
なぜ「勝つこと」だけが評価されるのか?
本書のタイトルにもなっている「人に優しく」を象徴する、著者の娘さん(障害児)の運動会のエピソードは圧巻です。
娘さんは筋肉が少なく、走るのが非常に遅いため、運動会ではいつもビリでした。
ある年、クラスに足をケガした女の子がおり、妻は「今日は、もしかするとうちの娘がビリじゃないかもしれない」と楽しそうに出かけていきました。
しかし、帰ってきた妻は「やっぱり八位(ビリ)だったのよ」と、それでもニコニコしています。
レースでは、娘さんの方がケガをした女の子より速かったのですが、途中でその女の子が転んでしまいました。
その転んだのを見たうちの娘が、「どうしたの?」って足を止めて、トコトコと逆走しまして、その子を助け上げて、その子の腕を持って、ずっと残りの九〇m一緒に走って、ゴールの手前で女の子の背中をポンッと先に押してから自分がゴールに入ったそうです。
結果はビリでしたが、会場は割れんばかりの大拍手に包まれました。
私たちは「ヨーイドンって鳴ったら、必ず一位、二位へ飛び込め」という教育しか受けてきていません。人より抜きん出ること、勝つことだけに価値があると信じ込まされてきました。
しかし、娘さんの中には「速くゴールする」という価値観がありませんでした。
私は、この徒競走の話を聞いたときにものすごくショックを受けました。そして、何百回も考えました。考えて、考えて、考えた結果、こういう結論になった。
娘の生き方の方が正しい。
著者の言う「正しい」とは、「自分にとって心地いい」ということです。
障害を持つ娘さんは、弱い者へのとんでもない優しさを持っていました。
戦わない、争わない生き方。それは敵を作らないどころか、味方にしてしまう「無敵」の生き方です。
私たちは、競争社会の中で、一番大事なものを見失ってきたのかもしれません。
今日からできる「宇宙を味方にする」実践法
本書では、「宇宙を味方につける」ための具体的な実践法も紹介されています。どれもコストゼロで、すぐに試せるものばかりです。
1. トイレ掃除
「金持ちの家のトイレは、必ずふたが閉まっていた」という大富豪の調査結果。
これを冗談半分で聞いた福井市の11人の主婦が実践したところ、1ヶ月後に全員に3万円から30万円の臨時収入があったそうです。
ポイントは、単にふたを閉めるだけでなく、「少しでも汚れていると、気になってピカピカに磨くようになった」こと。
そして、「家族が手伝い出し、家族が明るくまとまった」ことです。
著者は、トイレは宇宙とつながっているのかもしれない、と言います。
2. 「ありがとう」の奇跡
著者が今一番面白いと感じているのが「ありがとう」の不思議です。
驚くべきことに、「心を込めなくてもいい」と言います。
「ありがとう」という言葉自体に、呪文のような力があるらしいのです。
目安として、「ありがとう」を2万5000回言う(五戒を言ったらリセット)と、突然涙が出てくる人が多く、そこから先は心の底からの「ありがとう」になるそうです。
そして合計5万回を超えると、自分にとって心地よい「楽しい奇跡」が片っ端から起き始めると言います。
不平不満を言ってしまっても、10秒以内に「今のなしなし!」と取り消せばリセットされない、というルールもあるそうなので、ゲーム感覚で試してみてはいかがでしょうか。
まとめ:自分に「甘く」生きることを許可しよう
ビジネスパーソンは、自分に厳しくしがちです。
「正義感」や「責任感」は、持っている本人が一番苦しい、と著者は言います。
人を糾弾し、批判し、自分に対しても厳しい人は、確かにしっかりとは生きているのだけど、あまり楽しそうな人生には見えません。
反対に、自分にも他人にも優しく生きてると、〈すべての人の善意と好意の上に生きている〉ということに気がつきますから、すごく楽しいんです。
人生は、〈人に“優しく”、自分に“甘く”〉でいい。
「比べること」「競うこと」を少しだけ手放し、「シナリオどおり」の流れに身を任せてみる。
不平不満をやめ、目の前の「頼まれごと」に集中し、「ありがとう」を口癖にしてみる。
それだけで、あなたの人生は、もっと「楽で楽しいもの」に変わっていくかもしれません。






