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イングランド銀行公式『経済がよくわかる10章』- 忙しいあなたのための経済学再入門

ヒガマツコ

本書『イングランド銀行公式 経済がよくわかる10章』は、イングランド銀行の現役エコノミストが、経済学の基本原理を「食べたい朝ごはんを選べるのはなぜ?」といった10の身近な問いを通じて解説する画期的な入門書です。

この記事では、多忙なビジネスパーソンが経済の本質を短時間で掴めるよう、本書の核心部分を丁寧に要約・解説します。需要と供給といった基本から、金融政策、経済成長、国際貿易、そして経済危機のメカニズムまで、ビジネスの現場で役立つ知識を、書籍内の具体的なエピソードを交えながらわかりやすくお届けします。

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本書の要点

  • 経済学は身近な選択の積み重ね: 私たちの日常的な選択(ランチを何にするか、どうやって通勤するか)が「需要」と「供給」を生み出し、「市場」を通じて社会全体の仕組みを動かしている。
  • 市場は万能ではない: 市場はアダム・スミスの言う「見えざる手」によって効率的に機能する一方で、独占や環境問題(外部性)といった「市場の失敗」も引き起こす。
  • 経済成長が豊かさの源泉: 私たちが過去の世代より豊かな生活を送れるのは、GDP(国内総生産)で測られる経済が成長してきたから。その原動力は「土地、労働、資本、技術」の4つの生産要素にある。
  • お金と銀行が経済の血液: お金の本質は「信用」であり、その多くは民間銀行の「信用創造」によって生み出されている。中央銀行(イングランド銀行など)は、金融政策を通じてお金の価値(物価)と流通量をコントロールしている。
  • 経済政策が危機と戦う: 経済危機は予測困難だが、政府(財政政策)と中央銀行(金融政策)は、景気刺激や金利調整、量的緩和といった手段を用いて、経済の安定化を図っている。

はじめに – なぜ、今「経済学」なのか?

「経済学」と聞くと、複雑な数式やグラフが並ぶ、どこか遠い世界の話だと感じていませんか? 「GDP」「インフレ」「金融緩和」といったニュース用語は耳にするものの、それが自分の仕事や生活にどう繋がっているのか、いまひとつピンとこない…そんな方も多いかもしれません。

本日ご紹介する『イングランド銀行公式 経済がよくわかる10章』は、そんな「経済学アレルギー」を持つビジネスパーソンにこそ読んでいただきたい一冊です。著者は、イギリスの中央銀行であるイングランド銀行の現役エコノミスト。経済のプロフェッショナルが、専門用語を極力使わず、10の素朴な疑問に答える形で、経済の仕組みを解き明かしてくれます。

この記事では、本書の膨大な知識の中から、特に忙しいビジネスパーソンが押さえておくべきエッセンスを厳選し、具体的な事例を交えながら、わかりやすく解説していきます。

第1章・第2章:市場の魔法と、その限界

なぜ、食べたい朝ごはんがいつでも手に入るのか?

本書はこんな問いから始まります。「食べたい朝ごはんを選べるのはなぜ?」

あなたが今朝、おしゃれなカフェでアボカドトーストを食べたとします。そのアボカドは地球の裏側で栽培され、パンに使われる小麦もまた別の国からやってきています。農家、パン職人、トラックの運転手…数えきれないほど多くの人々が関わっていますが、彼らの誰も、あなたの朝ごはんのために働いているわけではありません。

近代経済学の父アダム・スミスは、この現象を「見えざる手」と表現しました。人々がそれぞれの利益を追求する行動が、結果的に社会全体にとって最も効率的な資源配分を実現するのです。私たちが何かを「欲しい」と思う気持ち(需要)と、企業が利益のためにそれを作って売ろうとする力(供給)が出会う場所、それが「市場」です。市場では「価格」というシグナルを通じて、需要と供給が自動的に調整され、私たちは欲しいものを欲しいときに手に入れることができるのです。

市場は万能か?―気候変動という「市場の失敗」

しかし、市場は常に完璧に機能するわけではありません。本書の第2章では、「市場の失敗」について警鐘を鳴らしています。

例えば、イングランド銀行の社員食堂では、かつてフライドポテトが均一価格で取り放題でした。すると、エコノミストたちは自分が食べきれる量よりはるかに多くのポテトを皿に盛ってしまい、大量の食べ残しが発生しました。これは「コモンズの悲劇」と呼ばれる現象で、個人の合理的な行動(効用の最大化)が、全体として好ましくない結果(資源の枯渇)を招く典型例です。

より深刻なのが、気候変動問題です。工場が排出する二酸化炭素の環境コストは、製品価格に十分に反映されていません。このような、市場取引の当事者以外に影響が及ぶことを「外部性」と呼びます。環境破壊のようなマイナスの影響は「負の外部性」と呼ばれ、市場メカニズムだけでは解決が難しい「市場の失敗」の代表例なのです。経済学は、この問題に対して「炭素税(ピグー税)」や「排出量取引制度」といった解決策を提示しています。

第3章・第4章:あなたの給料と、経済の成長

どうすれば給料は上がるのか?

ビジネスパーソンにとって最も関心の高いテーマの一つが「賃金」でしょう。第3章では、労働市場の仕組みを解き明かします。

あなたの賃金は、基本的にはあなたの「限界生産力」によって決まります。つまり、あなたが会社にもたらす金銭的な価値が高いほど、賃金も高くなる傾向にあります。プロのeスポーツ選手が巨額の報酬を得られるのは、彼らが多くの観客やスポンサーを引きつけ、所属チームに莫大な利益をもたらすからです。

しかし、労働市場は他の市場のようにスムーズには機能しません。そこには「摩擦」が存在します。自分に合った仕事がどこにあるのか、すぐにはわからない(摩擦的失業)。経済構造の変化で自分のスキルが時代遅れになってしまう(構造的失業)。こうした要因が、失業や賃金の停滞を引き起こします。

では、どうすれば賃金を上げられるのか? 本書が示す一つの答えは、「人的資本」への投資です。教育や訓練を通じて新たなスキルを身につけ、自身の生産性を高めることが、長期的に見て最も確実な賃上げの方法だと説いています。

なぜ、私たちはひいひいおばあちゃんの代より豊かなのか?

現代の私たちは、数世代前の人々と比べて、はるかに豊かで便利な生活を送っています。その理由は、経済が成長してきたからです。

国の経済規模を測る最も一般的な指標が「GDP(国内総生産)」です。これは、一定期間内に国内で新たに生み出されたモノやサービスの価値の合計額を示します。GDPが増えることは、経済というパイ全体が大きくなることを意味し、結果的に一人ひとりの取り分も増えるのです。

では、経済は何によって成長するのでしょうか? 経済学では、以下の4つの「生産要素」が重要だと考えられています。

  1. 土地: 天然資源を含む物理的な場所。
  2. 労働: 働く人々の力。人口や教育水準が影響する。
  3. 資本: 機械や設備、コンピュータといった生産手段。
  4. 技術: これら3つの要素を効率的に組み合わせる知識やノウハウ。

特に「技術」の進歩が、経済成長の最も重要なエンジンとなります。洗濯機の発明が女性の家事労働時間を劇的に短縮し、労働力を倍増させたように、画期的なイノベーションが私たちの生活水準を飛躍的に向上させてきたのです。

ただし、経済成長は良いことばかりではありません。所得格差の拡大や、幸福度の頭打ち(イースタリンのパラドクス)、そして環境破壊といった負の側面も伴うことを、本書は指摘しています。

第5章・第6章:グローバル経済とお金の価値

なぜ、私たちの服の大半はアジア製なのか?

あなたの着ているTシャツのタグを見てみてください。おそらく「Made in China」や「Made in Vietnam」と書かれているのではないでしょうか。第5章では、この疑問から国際貿易の仕組みを解き明かします。

その鍵となるのが「比較優位」という考え方です。これは、他国よりも「相対的に」得意なモノの生産に特化し、それを貿易で交換し合うことで、双方の国が利益を得られるという原理です。

例えば、イギリスはイチゴを、エクアドルはバナナを、それぞれ他国より低い機会費用(何かを生産するために諦めなければならない他のものの価値)で生産できるとします。この場合、イギリスはイチゴ生産に、エクアドルはバナナ生産に特化し、互いに輸出し合う方が、両国がそれぞれ両方を生産するよりも効率的で、全体としてより多くの果物を消費できるようになるのです。

アジア諸国がアパレル産業に強みを持つのは、豊富な労働力を背景とした低い労働コストに比較優位があるからです。このように、各国が比較優位を持つ分野に特化(専門化)することで、グローバルな分業体制が築かれ、私たちは安価で多様な製品を享受できるのです。

なぜ、モノの値段は上がり続けるのか?

イギリスで人気のチョコレート菓子「フレッド」。かつては10ペンスでしたが、今や25ペンスに値上がりしました。こうした物価の持続的な上昇が「インフレーション(インフレ)」です。

インフレが起きると、同じ金額で買えるモノの量が減るため、実質的にお金の価値が目減りします。インフレ率は、平均的な家計が購入する様々な商品やサービスを詰め合わせた仮想の「バスケット」の価格変動を追跡することで算出されます(消費者物価指数)。

インフレの原因は大きく2つに分けられます。

  • コストプッシュ・インフレ: 原材料費や賃金の上昇など、生産コストの増加が価格に転嫁されることで発生する。
  • デマンドプル・インフレ: 景気が良く、人々の需要が供給を上回ることで発生する。

高すぎるインフレは経済に混乱をもたらしますが、逆に物価が下がり続ける「デフレ」もまた深刻です。デフレ下では、人々は「明日になればもっと安くなる」と考え買い控え、企業の業績が悪化し、経済が縮小スパイラルに陥る危険があります。そのため、多くの中央銀行は、年2%程度のゆるやかなインフレを目標に設定しています。

第7章・第8章:お金と銀行の正体

そもそも「お金」って何?

第7章では、この根源的な問いに迫ります。歴史上、貝殻や石、タバコなど様々なものがお金として使われてきましたが、優れた「お金」には3つの機能が備わっています。

  1. 交換手段: モノやサービスと交換できる。
  2. 価値の貯蔵手段: 価値が安定しており、将来に持ち越せる。
  3. 価値の尺度: モノの価値を測る共通の単位となる。

しかし、現代のお金の最も重要な本質は「信用」にあります。私たちが1万円札に1万円の価値があると信じ、誰もがそれを受け取ってくれると信じているからこそ、それはお金として機能するのです。

そして驚くべきことに、私たちが日常的に使うお金の大部分(銀行預金)は、政府や中央銀行ではなく、民間の銀行が融資を行う際に「無から」創造しています。銀行が誰かに住宅ローンを貸し出すとき、その人の口座残高をキーボードで打ち込むだけで、新たな預金通貨が生まれるのです。これを「信用創造」と呼びます。

なぜ、タンス預金は好ましくないのか?

銀行に不信感を抱き、現金を自宅に保管する「タンス預金」。しかし本書は、銀行にお金を預けることの重要性を説きます。

銀行は単にお金を安全に保管する場所ではありません。銀行が果たす最も重要な役割は、預金者(お金を貯めたい人)と借り手(お金を使いたい人)を仲介することです。この仲介機能によって、使われずに眠っているお金が、住宅購入や企業の設備投資といった生産的な活動に回され、経済全体が活性化するのです。

しかし、銀行システムには脆弱性も存在します。預金者全員が一度にお金を引き出そうとすれば、銀行は破綻してしまいます(取り付け騒ぎ)。こうした事態を防ぎ、金融システム全体の安定を守るのが「最後の貸し手」としての中央銀行の役割です。中央銀行は、経営難に陥った銀行に一時的に資金を供給したり、自己資本比率規制などのルールを設けたりすることで、銀行システムを監督しているのです。

第9章・第10章:経済危機と、それに対する処方箋

なぜ、経済危機は予測できないのか?

2008年、エリザベス女王は経済学者たちにこう問いかけました。「どうして危機が起きると誰もわからなかったのですか?」。第9章は、この問いに答える形で、経済危機のメカニズムを解説します。

経済危機は、投機バブルの崩壊、金融システムの不安、パンデミックのような予測不能な衝撃(ブラックスワン)など、様々な要因が複雑に絡み合って発生します。南海会社の株価が高騰した18世紀の「南海泡沫事件」から、近年の金融危機まで、根底には「根拠なき熱狂」と、他人の行動に追随してしまう「群衆行動」といった、人間の非合理的な心理が横たわっています。

経済学者は、過去のデータや経済モデルを用いて未来を予測しようとしますが、その精度は天気予報のようなもので、完璧ではありません。経済は複雑で、人間の行動は常に合理的とは限らないため、危機の正確な予測は極めて困難なのです。

中央銀行や政府は何をしているのか?

危機を防ぎ、あるいは危機の影響を最小限に食い止めるために、中央銀行と政府は経済をコントロールするための「レバー」を持っています。

  • 金融政策(中央銀行): 中央銀行は「金利」を上げ下げすることで、経済の舵取りを行います。金利を下げれば、企業や個人がお金を借りやすくなり、消費や投資が活発になります。逆に金利を上げれば、経済の過熱を抑えることができます。金利がゼロ近くまで下がってしまった場合には、「量的緩和(QE)」という非伝統的な手段で、市場にお金を供給し、経済を刺激します。
  • 財政政策(政府): 政府は「税金」と「政府支出」を通じて経済に働きかけます。不況期には、減税を行ったり、公共事業などの政府支出を増やしたりして(財政出動)、経済を刺激します。

中央銀行が独立性を保ち、政治的な圧力から離れて金融政策を決定すること、そして政府が持続可能な財政運営を行うことが、経済の安定にとって不可欠です。

まとめ – あなたも今日から「経済学者」

本書を読み終えてわかるのは、経済学が単なる学問ではなく、世界を理解し、より良い判断を下すための強力なツールであるということです。

イングランド銀行の市民パネルに参加したシャーリーンという女性のエピソードが印象的です。彼女は当初、経済学を「お高くとまった退屈なもの」だと感じていましたが、対話を通じて、それが自分の賃金や家賃、地域社会の問題に直結していることに気づき、学び始めました。その結果、彼女は新たなキャリアを切り拓き、政治にも積極的に関わるようになったのです。

あなたがコーヒーを買う選択も、転職を考える決断も、すべてが経済の一部です。本書『経済がよくわかる10章』は、その一つ一つの選択が、より大きな経済のうねりとどう繋がっているのかを教えてくれます。

この記事を通じて、経済学への興味が少しでも湧いたなら、ぜひ本書を手に取ってみてください。きっと、明日からのニュースの見方、そして世界の捉え方が、少し変わって見えるはずです。

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ABOUT ME
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ブックロウ
王立図書館の司書
はじめまして、管理人の「ブックロウ」です。まるで物語に出てくるフクロウのように、夜な夜な本を読みふけるのが私のライフワーク。特に、仕事や人生のヒントが詰まったビジネス書・自己啓発書には目がありません。「本を読む時間はないけど、知識はアップデートしたい…」そんな悩めるあなたの為に、私が代わりに本を読み、明日からすぐ使える実践的なポイントや成功のエッセンスを分かりやすく解説します。千葉県東松戸のカフェでこのブログを書いていることが多いので、もし見かけたら気軽に声をかけてくださいね。皆さんの自己成長をサポートできることを、心から楽しみにしています。
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