堀江貴文『捨て本』- モノ、見栄、常識を捨てて、身軽に生きる。多動力の源泉に迫る思考法
本書は、実業家・堀江貴文氏が自身の半生を振り返りながら、人生をより豊かに、そして身軽に生きるための「捨てる」哲学を語った一冊です。 堀江氏は、モノやお金への執着はもちろん、プライド、常識、古い人間関係といった無形の足かせさえも「不要品」と断じ、それらを捨てることで得られる本当の自由と、人生で本当に大切なものに集中する生き方を提唱しています。 収監という特殊な経験から得た気づきや、ビジネス、結婚、宇宙事業に至るまで、具体的なエピソードを交えながら、現代を生きる私たちが抱える閉塞感を打ち破るための、過激かつ本質的なメッセージが詰まっています。
本書の要点
- モノへの愛は幻想である: 私たちが「大切」だと思っているモノのほとんどは、失っても困らない不要品であり、むしろ私たちの思考や行動を縛る足かせとなっている。
- 捨てるべきは「無形の資産」: モノだけでなく、プライド、空気読み、義理、古い人間関係といった、目に見えない固定観念やしがらみこそ、真っ先に捨てるべきものである。
- 「所有」から「体験」と「共有」へ: テクノロジーの進化により、価値は「何を所有するか」から「どんな体験をするか」「どう共有するか」へとシフトしている。 この流れに乗り、身軽になることが新しい豊かさにつながる。
- 時間こそが最も貴重な資産: 人生で最も大切な資源は「時間」であり、不要なモノや思考、人間関係を捨てることは、この時間を最大化するための最適な手段である。
- 絶対に捨ててはいけないもの: あらゆるものを捨てる一方で、「自分が自分であること(アイデンティティ)」と、行動の源泉となる「好奇心」だけは、何があっても手放してはならない。
はじめに:あなたのその「大切」、本当に必要ですか?
「本当にそれは必要ですか?」
堀江貴文氏の著書『捨て本』は、この強烈な問いかけから始まります。
多動力、ゼロ、本音で生きる――。数々のベストセラーで常識を揺さぶり続けてきた堀江氏が、今回テーマに据えたのは「捨てる」こと。
私たちビジネスパーソンは、日々多くのモノ、情報、タスクに囲まれて生きています。お気に入りのガジェット、増え続ける名刺、読み終えられないビジネス書、そして上司の期待や同僚とのしがらみ…。気づけば、多くの「持ち物」にがんじがらめになってはいないでしょうか。
堀江氏自身も、かつてはモノへの執着が人並みに強かったと告白します。 しかし、2011年の収監直前、自宅の持ち物をすべて処分するという「強制断捨離」を経験。 この経験を経て、モノを失うことで得られる身軽さ、そして本当に大切なものが明確になる感覚を得たと言います。
この記事では、堀江氏が『捨て本』で語る哲学を、氏自身の具体的なエピソードを交えながら深掘りしていきます。この記事を読み終える頃には、あなたもきっと「捨てる勇気」を手に入れ、人生の余分な重荷を下ろしたくなるはずです。
第1章:モノへの愛は「思いこみ」である – ナスビさんチョッキ事件の教訓
多くの人がモノを捨てられない根源には、「愛着」や「思い出」があります。しかし堀江氏は、そのほとんどが 「大切」という幻想のパッケージにくるまれた不要品 だと断言します。
その原体験として語られるのが、幼稚園時代に愛用していた「ナスビさんチョッキ」のエピソードです。
白地にナスやニンジンの絵が描かれた、どこにでもあるチョッキ。 しかし、当時の堀江少年にとっては宝物でした。 ある日、そのチョッキが母親によって知人の子にあげられてしまったことを知り、彼は涙が止まらなくなるほどの喪失感を味わいます。
しかし、大人になった今、なぜあんなものを大事にしていたのか不思議に思う、と堀江氏は語ります。 このエピソードが象徴するのは、私たちがモノに対して抱く愛着が、いかに「思いこみ」に過ぎないかということです。
あなたにも、経験があるだろう。
なくしたときは悲しんだけれど、後々になってからは「なんであんなものを大事にしていたんだ?」と、首を傾げてしまうようなモノを持っていた。
モノを持つことは、一見すると安心感を与えてくれるように思えます。しかし、実際には「なくしたらどうしよう」という不安を増幅させ、 思考の密度を奪う のです。 堀江氏は、モノに囲まれた偽りの充足感よりも、それを大胆に捨てて軽やかに走り出す爽快感を選んでほしいと訴えます。
第2章:ビジネスパーソンが捨てるべき「無形の足かせ」
堀江氏が「捨てろ」と主張するのは、物理的なモノに限りません。むしろ、私たちの思考や行動を本当に縛っているのは、目に見えない「無形の足かせ」なのです。
プライドという最大の不要品
堀江氏は、プライドを大事にして良いことは「これっぽっちもない」と断言します。
小学校時代、クラスのボス的存在だった吉田君が、女性の出産の仕組みについて間違った知識を得意げに語ったとき、堀江氏は「ぜんぜん違う!」と真っ向から反論しました。 結果、クラス中を敵に回し、大ゲンカに発展します。
しかし、この出来事で堀江氏が感じたのは、周囲の異質さでした。多くの同級生は、正論よりも、クラスのボスに逆らったという「勇気」を評価した のです。 この経験から、彼は「おかしいことはおかしい」と言い切る姿勢を貫くようになります。
ビジネスの世界でも同様です。プライドが邪魔をして、素直に助けを求められなかったり、自分の間違いを認められなかったりすることで、大きなチャンスを逃す人は後を絶ちません。堀江氏は、辛く苦しいときこそ、あえてピエロになる選択、つまり プライドを捨てることが突破口になる と説いています。
「空気読み」という時間の無駄
「本音や正論を言うと、人間関係が崩れる」
多くのビジネスパーソンが、こうした恐れから言いたいことを言えずにストレスを溜めています。しかし堀江氏は、 気配りなんか、ばっさり捨てて、言いたいことを言っていい と一蹴します。
むしろ、いまの時代、本音を言われて困るのはマネジメント能力を問われる上司の方であり、SNSで実態が拡散されれば社会的制裁を受けるリスクすらあると指摘します。 本音を言える側の方が、圧倒的に強いのです。
人間関係に配慮して、言いたいことを言わず、空気読みを続けることなど、エネルギーの無駄だ。
意見の衝突を恐れてはいけません。意見が異なる人間を排除しようとするコミュニティにいること自体が不幸です。 大事なのは、やるべき仕事をやること。 そのためには、恐れを捨て、本音で仕事に向き合うことが、結果的にパフォーマンスを高めることにつながるのです。
人間関係はリセットするもの
「ステージごとに人間関係はリセットする」
これもまた、堀江氏の過激ながらも一貫した主張です。
仕事や触れる情報によって、人の価値観や人生のステージは刻々と変わっていきます。 そんなとき、いつまでも昔話ばかりしてくる友人は、本当に必要でしょうか? それは安心感ではなく、むしろ 過去の関係にしがみつき、あなたの前進を邪魔する存在 になりかねません。
堀江氏自身、ビジネスで成功していく過程で、何度も人間関係をリセットしてきました。 それは、次のステージに進むために、過去に戻れるという「保険」をかけたくなかったからだと言います。
もちろん、リセットには痛みが伴うこともあります。 しかし、その痛みは「ヒマな証拠」であり、新しいことに熱中していれば感じる暇もないのです。 今の人間関係が足かせになっていると感じるなら、思い切って手放してみる。そこに新しい出会いと可能性が生まれるのです。
第3章:「所有」から「体験」と「共有」へ – 新時代の価値観を生きる
堀江氏の「捨てる」哲学は、単なるミニマリズムの推奨ではありません。それは、これからの時代を豊かに生きるための、新しい価値観へのシフトを促すものです。
お金で買えるものに意味はない
中学時代、切手収集にハマった堀江氏は、ある事実に気づきます。
どんなに貴重なプレミアム切手も、結局は「1億円あれば手に入る」。 つまり、 値段がついているモノは、お金で買える ということです。 「欲しい気持ち」の強さに関係なく、お金を払える人の元へ行ってしまう。そう気づいた瞬間、堀江氏の切手収集への熱は急速に冷めていきました。
金ですべて満たされるような趣味に、意味はない。
この気づきは、彼のその後の人生哲学の根幹を成します。モノを所有することは「それを買えるチャンスと経済力があった」という事実を可視化しているに過ぎず、所有そのものに価値はない。
彼は、起業して収入が上がり、年収1000万円を超えたあたりから、不思議なほど物欲が消えていったと語ります。 そして、モノではなく 「体験」にお金を投じる ようになりました。
モノは、いつか尽き、朽ちていく。
でも体験は、尽きない。
多少色あせることはあっても、誰からも奪われたりしないものだ。
誰も見たことのない景色を見ること、最高に美味いものを食べること、面白い人たちと語り合うこと。 こうした誰にも奪われない「体験」こそが、人生を真に豊かにする資産なのです。
シェアリングエコノミーという大きな潮流
堀江氏が「所有」を捨てるべきだと考える背景には、テクノロジーの進化がもたらした社会の変化があります。
かつては、高いモノを「どれだけ持つか」が豊かさの指標でした。 しかし、インターネットとスマホの普及は、シェアリングエコノミーという新しい経済圏を生み出しました。
いまから25年後には、多くの企業や消費者にとって、所有というコンセプトは、限られた、古臭いものになるだろう。
未来学者ジェレミー・リフキンのこの言葉を引用し、堀江氏も「所有という概念はだんだんと溶けていき、やがては遺物になっていく」と予測します。
UberやAirbnbのように、私たちはもはや車や家を所有しなくても、それらが提供する便益(=体験)にアクセスできるようになりました。 文明は「独占」から「共有」へと移行しており、この流れの中で 所有に執着することは、逆に共有の恩恵を得られないリスクを負う ことになるのです。
これからの時代に求められるのは、「何を持っているか」ではなく、「何をしたか?」「誰と出会ったか?」という個人の行動力に裏打ちされた経験値なのです。
第4章:時間こそが最強の資産 – 「捨てる」ことで時間を最大化する
堀江氏が、あらゆるものを捨てていく中で、唯一「絶対に捨てない」と公言するもの。それが 「時間」 です。
人にとって最も大事なものは何か? 時間。それ以外にない。
モノでも貯金でも人脈でもない。
この瞬間、すごい速さで過ぎている時間こそ、何ものにも代えがたい宝物なのだ。
彼のあらゆる思考と行動は、この「時間」という資産をいかに最大化するか、という一点に集約されていると言っても過言ではありません。
無意味な「修業」は今すぐ捨てろ
堀江氏は近年、「修業はいらない」と繰り返し唱えています。
例えば、寿司職人の世界。かつては「飯炊き3年、握り8年」と言われるように、一人前になるには10年以上の下積みが必要とされていました。 しかし堀江氏は、美味しい寿司のつくり方などYouTubeで学べば数ヶ月で習得できると指摘します。 実際に、修業経験ゼロのオーナーが開いた寿司屋がミシュランに掲載される時代です。
長い修業期間は、スキル獲得の絶対条件ではありません。 それは、苦労した上の世代が「時間をかけないと上達しない」というポジショントークで、既得権を守るための勝手なルール に過ぎないのです。
あなたが何かを始めたいとき、問うべきは「目的は何か?」です。 「お客さんを幸せにしたい」のが目的なら、長い下積みよりも、SNSでの情報収集や流行りの店の研究の方がよほど重要です。 目的達成のために、無駄な時間を強いる「修業」という概念は真っ先に捨てるべき対象なのです。
会社を辞められない本当の理由
「いまの会社を辞めたいけれど、辞められない…」
多くのビジネスパーソンが抱えるこの悩みの根源も、時間に対する執着にあると堀江氏は分析します。 生活の不安はもちろんありますが、それ以上に大きいのが 「いま辞めたら損をする」 という感情です。
あなたは「いま辞めたら損をする」と、どこかで思ってるんじゃないだろうか?
嫌な上司や理不尽な仕事に耐えてきた、その「我慢の時間」が無駄になってしまうことを恐れている。 つまり、株式投資でいう 「損切り」ができない状態 に陥っているのです。
しかし、その我慢は未来の利益を生むでしょうか? ほとんどの場合、答えはノーです。辛い時間をこれ以上積み重ねるのではなく、思い切って損切りし、新しい可能性に時間という資産を投資する。その決断こそが、人生を好転させるのです。
終章:それでも「捨ててはいけない」もの
モノ、プライド、常識、人間関係、時間泥棒…。堀江氏はあらゆるものを「捨てろ」と説きますが、その一方で、絶対に捨ててはいけないものが2つあると語ります。
1.自分が自分であること(アイデンティティ)
ライブドア事件で有罪が確定した際、堀江氏には「罪を認めて執行猶予を狙う」という選択肢がありました。 しかし彼は、それを拒否します。
僕が僕自身に噓をつき、肌感覚で「嫌だ!」ということを許してしまったら、激しく後悔するとわかっていた。
当面の自由な時間を捨てることになったとしても、僕は僕であることを、捨てたくなかったのだ。
目先の利益や安楽のために、自分自身の根幹、すなわちアイデンティティを捨ててしまえば、それはもう取り戻せません。 どんなモノを失っても、どんな苦境に立たされても、「自分自身」だけは絶対に手放してはいけない。 それが、堀江氏が数々の修羅場をくぐり抜けてたどり着いた、ひとつの答えなのです。
2.好奇心
もうひとつ、堀江氏が決して捨てないもの。それは 「好奇心」 です。
収監中という不自由な環境下でさえ、彼の好奇心は衰えませんでした。 航空工学の勉強を始めたり、普段は見ない大河ドラマを楽しんだり、常に新しい発見を求めていました。
好奇心は、誰にも奪うことのできない、あなただけの資産です。 そして、行動の源泉となります。 好奇心があるからこそ、私たちは現状を変えようと動き出し、新しい世界に飛び込むことができるのです。
堀江氏が莫大な資金と時間を投じ続ける宇宙事業も、まさにこの好奇心の結晶と言えるでしょう。
まとめ:さあ、この本を捨てて、はじめよう
堀江氏は、この本の最後にこう語りかけます。
さあ、ここまで読んでくれた人ならもうわかっていると思うけど、さっさとこんな本なんて捨ててしまおう。
知識を得るだけで満足してはいけない。行動しなければ、何も変わらない。その強烈なメッセージです。
『捨て本』は、単なる片付け術の本ではありません。それは、情報過多で、モノと常識に溢れた現代社会を、自分らしく、軽やかに、そして力強く生き抜くための「思考法」の指南書です。
あなたが今、何かに行き詰まりを感じているなら、それは不要な何かを「持ちすぎている」サインかもしれません。
まずは、財布の中のレシートを一枚、捨てることから。
机の上の、読んでいない本を、誰かにあげることから。
その小さな「捨てる」という一歩が、あなたの人生を大きく変えるきっかけになるはずです。