「やりたくない」を「やりきる」技術とは?『最後までやりきる力』に学ぶ、先延ばし癖を克服する賢い戦略
「成功のためには電話営業が必要だ」と分かっていても、つい後回しにしてしまう。そんな経験はありませんか? 本書『最後までやりきる力』は、なぜ私たちが「やるべきこと」を先延ばしにしてしまうのか、そして、どうすれば「やりたくないこと」でも最後までやりきれるのかを解き明かす一冊です。
著者らは、やりきれないのは「意志の弱さ」や「動機の不足」が原因ではないと断言します。人間の脳は、そもそも「決意」を自動的に「実行」へ移すようにはできていないのです。
この記事では、本書が提唱する「もっとがんばる」という精神論に頼るのではなく、「賢い戦略」を用いて行動せざるを得ない状況を作り出す、具体的な仕事術と思考法をご紹介します。
本書の要点
- 「最後までやりきる力」は、生まれ持った才能や意志の強さではなく、誰でも習得可能な「技術」である。
- 人間の脳は「成功したい」という理性的な決意よりも、「やりたくない」という瞬間の感情を優先するようにできている。
- 「もっとがんばる」という精神論や、一時的な「インスピレーション」に頼るアプローチは、長続きせず効果が薄い。
- やりたくない仕事(スライム)は、ハードルを極端に下げる(解毒する)か、やらざるを得ない状況に自分を追い込むことで対処する。
- 決意を「真剣に扱い」、常に意識し、実行するための具体的な「計画」を立てる習慣こそが成功のカギとなる。
なぜ、やるべきと分かっていても「先延ばし」してしまうのか?
「電話での営業にもっと時間を割けば、業績は大きく上がるはずだ。嫌いな業務だが、事業を本気で成功させるために、これからはたくさん電話をかけよう」
技術コンサルタントのエドワードはこう決意しました。しかし、彼は本当に電話営業の回数を増やすでしょうか?
本書の答えは、おそらく「ノー」です。
多くのビジネスパーソンが、「やるべきこと」を前にして足踏みしてしまう経験を持っています。私たちは、それを「自分の意志が弱いからだ」「やる気が足りないからだ」と責めてしまいがちです。
しかし、著者らは「最後までやりきることができないのは、あなたのせいではない」と言い切ります。人間の思考回路は、そもそも物事をやりとげるのに向いていないのです。
成功のために何をすべきかを考える「知性」と、それを「実行」する機能は、脳内で直結していません。そして残念なことに、「(将来の成功のために)デスクを片付けるべきだ」という理性的な決意よりも、「(今)テレビが見たい」という瞬間の感情の方が、行動をコントロールする力が強いのです。
ごくまれに、決意を即座に実行に移せる「生産性マシン」のような人々(本書では「異常値」と呼ばれています)もいますが、私たち「その他大勢」が彼らと自分を比較しても、自信を失うだけで百害あって一利なしです。
私たちがまず受け入れるべき現実は、「成功を望むだけでは、やりたいと思えないことへの抵抗感は克服できない」という事実なのです。
経営者やリーダーが陥る「自由の罠」
特に、経営者やフリーランス、あるいは組織内で大きな裁量を持つリーダーは、この問題に直面しやすいと本書は指摘します。
会社員時代は、上司からの期待、厳しい締め切り、業績評価といった、ある種の「プレッシャー」が存在しました。これらはストレスの原因であると同時に、やりたくない仕事(本書では「スライム」と呼ばれています)を片付けるための「やりとげるためのインフラ」として機能していました。
しかし、独立したり昇進したりして「自由」を手に入れると、このインフラが失われます。
- 敏腕セールスパーソンだったジムは、独立後、得意な「販売」以外の「見込み客獲得」(彼にとってはスライム)が手につかず、苦戦します。
- 優秀な広告プロフェッショナルだったジェニファーは、会社員時代は次々と仕事をこなせたのに、独立して「自分で仕事を見つける」必要が出た途端、情熱が湧かず動けなくなりました。
彼らは、雇われていた頃に自分を支えていたインフラの存在に気づいていなかったのです。裁量が大きくなればなるほど、「もっとがんばる」ではなく、自分自身で「やりきるためのインフラ」を再構築する技術が不可欠になります。
「もっとがんばる」をやめる!意志の力に頼らない賢い戦略
では、どうすれば「やりきる力」を身につけられるのでしょうか? 本書は、意志の力(ガソリン)に頼るのではなく、賢い戦略(=仕組み)を使うことを推奨しています。
戦略1:決意を「真剣に」扱う(目覚まし時計の例)
あなたは「明日、朝4時に起きる」と決意したら、自分の意志の力だけを信じて寝ますか? きっと、目覚まし時計をセットするはずです。
決意もこれと同じです。決意しただけでは自動的に実行されることはありません。 決意を実行に移すための具体的な「プラン(=目覚まし時計)」をセットする必要があります。
「最新動向を追いかける」という曖昧な決意ではなく、「市場動向に関する記事を、毎週金曜日の午前10時から1時間読む」というように、曖昧さをなくし、具体的な行動に落とし込むことが第一歩です。
戦略2:人間の「労力節約本能」を逆手に取る
人間は、無意識に「楽な道」を選び、労力を節約しようとします。この本能は、決意を妨げる厄介な敵であると同時に、最強の味方にもなります。
やるべきことは「実行するのを簡単に」し、やめるべきことは「実行するのを難しく」すればよいのです。
著者のレヴィンソンは、おいしいサラミのつまみ食いをやめられませんでした。冷蔵庫を開けて、スライスされたサラミをつまむだけだったからです。そこで彼は、サラミを塊(かたまり)のまま買うことにしました。
次に食べたくなったとき、彼の頭には「ナイフとまな板を用意し、包みをはがし、切り、使った道具を洗う」という面倒なステップが浮かびました。その結果、彼はサラミを食べるのをやめ、隣にあった「切ってあるリンゴ」(=簡単な方)を選びました。
仕事においても、やるべきタスクに取りかかるハードルを下げ、SNSやネットサーフィンといった誘惑のハードルを上げる(例:アプリをアンインストールする)工夫が有効です。
今すぐ使える!自分を動かす3つの具体的なテクニック
本書には、自分を強制的に動かすための賢い戦略が満載です。ここでは特に実践的な3つを紹介します。
① 自分を追い込む(世界に宣言する・退路を断つ)
人間は、自分との約束よりも、他人との約束を破る方にはるかに強い抵抗を感じます。
- 著者のクーパーは、ラジオ番組を始めると決意した際、先に正式な契約を結び、資金を投じ、周囲に宣言しました。これにより、「やらざるを得ない」状況を作り出し、膨大な準備作業をやりとげました。
- ある女性は、オフィスの壁を塗り直すという作業を先延ばしにしていましたが、壁のいちばん目立つところに雑にペンキを塗りました。 中途半端な状態で放置すればクライアントの信頼を失うため、彼女は最後までやりとげることができました。
② 嫌いな作業を「解毒」する(ハードルを極端に下げる)
やりたくない仕事(スライム)に直面すると、私たちの心の中では「サケルザウルス」(避けたい恐竜)が目を覚まします。このサケルザウルスを起こさないよう、ハードルを極端に下げてしまうのが「解毒」戦略です。
- レヴィンソンは、毎朝40分のエアロバイクが億劫で続きませんでした。そこで彼は、決意のハードルを「トレーニングウェアを着て、サドルに腰かけ、足をペダルに載せる」ところまでに下げました。
- 驚くことに、彼が「義務」としていたのはそこまででしたが、いざペダルに足を載せると、ほとんどの場合、そのまま数分、時には40分間こぎ続けることができたのです。
「1分だけやる」「必要な資料を集めるだけ」など、絶対に避けたいと思わないレベルまでタスクを分解することで、最初の一歩を踏み出すことができます。
③ やらざるを得ない状況を作る(お金の力)
まっとうな動機(成功したい)が行動につながらないなら、別の強力な動機を作り出せばいいのです。
- 保険会社を起業したジェフは、週10件の電話営業を先延ばしにしていました。そこで彼は、アシスタントに10ドル札を10枚(100ドル)入れた封筒を管理させました。
- 金曜の終業時に、アシスタントはジェフがその週にかけた電話の件数分だけ10ドル札を彼に返し、残ったお札はすべて目の前でシュレッダーにかけました。
- 自分が苦労して稼いだお金が裁断される苦痛は、電話営業の嫌悪感を上回りました。ジェフは毎週必ず10件の電話営業をするようになったのです。
やりきる力を「維持」するための習慣術
こうした戦略を一度使って成功しても、慢心してはいけません。本書は、「最後までやりきる力」は自転車の運転のように、一度身につけたら無意識にできるものではなく、常に意識的に「手動」で使い続けるスキルだと強調します。
やりきる力を維持し、習慣化するためには、以下の2つがカギとなります。
決意ごとの「やりとげるための計画」を立てる
新しい決意を固めるたびに、「どんな障害が予想されるか?」「どうやって常に意識し続けるか?」「どうすれば実行を簡単にできるか?」といった計画を立てる習慣をつけます。決意を「積極的に管理」する
自分が今どんな決意(約束)を抱えているかをリスト化し、週に一度5分でも見直す「決意レビュー」を行います。これにより、もはや重要でなくなった決意を正式に捨て、守るべき決意への集中力を高めることができます。
「やるべきこと」が片付かないのは、あなたの能力や情熱が足りないからではありません。やりきるための「戦略」を知らなかっただけなのです。『最後までやりきる力』の賢い戦略を使いこなし、先延ばし癖と決別し、あなたのビジネスを次のステージへ進めましょう。







