『僕らはSNSでモノを買う』徹底解説!広告費をかけずに売上を伸ばすUGC活用術
本書『僕らはSNSでモノを買う』は、現代のSNS時代において、企業や個人が広告費に大きく依存することなく、ユーザーの自発的な情報発信(UGC)を起点とした新しい購買行動モデル「ULSSAS(ウルサス)」を理解し、実践することで、いかにしてモノやサービスを売るか、その具体的な方法論を提示する一冊です。本書を読めば、SNSマーケティングの「今」と、明日から実践できる具体的なヒントが得られます。
本書の要点
- 現代の消費者は企業の広告よりも、友人・知人などのリアルな口コミ、すなわち UGC(User Generated Contents=ユーザー生成コンテンツ) を信頼して購買を決定します。
- SNS時代の購買プロセスは、UGCを起点とする 「ULSSAS」(UGC→Like→Search1→Search2→Action→Spread) という新しいサイクルで説明できます。
- 情報の拡散は、フォロワーの多いインフルエンサーではなく、リアルな人間関係に近い 「スモール・ストロング・タイ(小さくて強い絆)」 の連鎖によって爆発的に生まれます。
- UGCが自然発生しにくいBtoB商材などでは、ユーザーの課題を解決する コンテンツマーケティング によって、UGCが生まれる「きっかけ」を意図的に作ることが有効です。
- 小手先のテクニックではなく、顧客に「伝えたい」と思ってもらえるような 良い商品・良いサービスを磨き上げること が、究極にして最強のマーケティング戦略となります。
はじめに:なぜ、あなたの広告はユーザーに届かないのか?
「渾身の広告が、ほとんど見られない」
「届けたい情報が、ユーザーに届かない」
「広告の費用対効果が、どんどん悪化している」
「たとえ情報が届いても、モノが売れない」
企業のマーケティング担当者であれば、一度はこのような悩みに直面したことがあるのではないでしょうか。
インターネット広告費がテレビ広告費を上回る現代において、皮肉なことに「ネット広告は効かなくなった」という声が日増しに大きくなっています。 世界には130兆ページものWebページが存在し、企業が発信する情報は、まさに「砂浜の中の一粒の砂」を見つけるほどに、届きにくくなっているのです。
従来の、検索キーワードに広告を出すリスティング広告や、検索上位を目指すSEO対策は、すでに商品やサービスを認知し、ニーズが「顕在化」している顧客にしかアプローチできません。 しかし、少子高齢化が進む市場で成長を続けるには、まだ自社を知らない「潜在顧客」へのアプローチが不可欠です。
では、この情報爆発時代に、どうすれば私たちのメッセージを本当に届けたい人に届け、購買に繋げることができるのでしょうか。
本書『僕らはSNSでモノを買う』は、その問いに対する明確な答えを提示してくれます。キーワードは 「UGC(ユーザー生成コンテンツ)」 です。
広告より信頼される唯一のもの、それが「UGC」
あなたは最近、何か買い物をした時のことを思い出してみてください。友人がSNSで「このファンデーション、すごく良かった!」と絶賛していた投稿を見て、思わず同じものを買ってしまった経験はありませんか?あるいは、タイムラインで多くの人が「面白かった!」と語っている映画を観に行ったことはないでしょうか。
企業が発信する広告よりも、利害関係のない第三者である友人や知人の「口コミ」を信頼するのは、ごく自然なことです。実際にデータを見ても、消費者が購買時に最も影響を受けるのは「家族・友人・知人からの推薦」であることがわかっています。
この、 企業ではなくユーザーの手によって自然に生み出されるコンテンツ(口コミ、投稿、レビューなど) こそが、本書で最も重要視されている UGC(User Generated Contents) なのです。
Twitterの140文字のツイートも、Instagramの写真一枚も、食べログのレビューも、Amazonの商品レビューも、すべてがUGCです。 そして、SNS時代のUGCが特に強力なのは、シェアやリツイートといった 「拡散」の仕組み が備わっているからです。
情報が溢れかえり、広告が信頼されにくくなった現代において、UGCはユーザーに届き、信頼され、そして購買行動を後押しする最もパワフルな情報源なのです。
UGCが売上に繋がるメカニズム:鍵は「指名検索」
「UGCが重要なのはわかった。でも、本当に売上に直結するのか?」
そう思われる方もいるかもしれません。ここが非常に重要なポイントです。
本書では、 UGCが増えると「指名検索」が増える という相関関係が示されています。
指名検索とは、「シャトレーゼ」や「僕らはSNSでモノを買う」のように、企業名や商品名で直接検索されることを指します。
例えば、友人がSNSでおすすめしていた家具の投稿(UGC)を見たあなたは、次に何をするでしょうか?多くの場合、その家具のブランド名をGoogleやYahoo!で検索(指名検索)し、公式サイトや他のレビューをチェックするはずです。
「家具 おすすめ」といった一般的なキーワードで検索している人よりも、「〇〇ファニチャー」と指名で検索してくる人の方が、購買意欲が高いことは明らかです。つまり、 指名検索が増えるということは、それだけ購買に近いユーザーが増えることであり、結果的にコンバージョン率(成約率)が高まり、売上が向上する のです。
広告費をかけてキーワードの奪い合いをするのではなく、UGCを増やすことで自然と指名検索を増やし、売上に繋げていく。これがUGCを起点としたマーケティングの基本的な考え方です。
【最重要フレームワーク】新購買行動モデル「ULSSAS」を完全理解する
では、UGCはどのように生まれ、購買と拡散に繋がっていくのでしょうか。著者は、このSNS時代の購買プロセスを 「ULSSAS(ウルサス)」 という新しいフレームワークで説明しています。
これは、従来の「AIDMA」や「AISAS」に代わる、現代のユーザー行動に即した新しいモデルです。
- U:UGC (口コミ)
すべての起点は、ユーザーによる投稿(UGC)です。 「このケーキ美味しい!」「このサービス最高だった!」といった個人の発信がすべての始まりとなります。 - L:Like (いいね)
その投稿を見た友人や他のユーザーが「いいね!」やリツイートなどで共感を示します。 - S:Search 1 (SNS検索)
共感した人の中には、さらに詳しく知りたいと思い、まずはTwitterやInstagramなどのSNS内でハッシュタグ検索などを行います。 ここでは、他のユーザーの「リアルな声」を覗き見るような感覚で検索がされます。 - S:Search 2 (Google/Yahoo!検索)
次に、GoogleやYahoo!などの検索エンジンで、公式サイトや価格、詳細なスペックなどを調べます。 お店であれば予約、商品であればECサイトでの購入もこの段階で行われることがあります。 - A:Action (購買)
二段階の検索を経て、ユーザーは最終的に商品の購入やサービスの利用といった行動(Action)に至ります。 - S:Spread (拡散)
そして、商品やサービスを体験したユーザーが、今度は自ら「この商品、本当に良かった!」とSNSに投稿(Spread)します。これが新たなUGCとなり、次のULSSASサイクルへと繋がっていくのです。
この ULSSASのサイクルが回り始めると、企業が莫大な広告費を投下しなくても、UGCがUGCを生み、半自動的に情報が拡散され、購買が促進される という理想的な状態が生まれます。 企業の役割は、このサイクルが円滑に回るように、起点となるUGCを増やし、効果的に広げる手助けをすることにあります。
ULSSASを回す鍵①:狙うはインフルエンサーではなく「スモール・ストロング・タイ」
ULSSASサイクルを回し、UGCを拡散させるためには「質の高いフォロワー」を確保することが重要です。
ここで多くの人が「質の高いフォロワー=フォロワー数の多いインフルエンサー」と考えがちですが、本書はそれを明確に否定します。
本当に重要なのは、 「スモール・ストロング・タイ(小さくて強い絆)」 で結ばれたユーザーです。
Twitterユーザーの多くは、実は家族や親しい友人など、リアルな人間関係(プライベートグラフ)で繋がっています。 情報の大きな拡散やバズは、何十万人ものフォロワーを持つ一人のインフルエンサーによって起こるのではなく、この 「小さくて強い絆」で繋がった普通の人々のリツイートやシェアが、鎖のように連鎖していくことで生まれる のです。 ちょうど、学校で噂がクラスからクラスへと広がっていくのに似ています。
信頼する友人からの情報は、他のどんな情報よりも優先され、強く心に響きます。 この「スモール・ストロング・タイ」の連鎖こそが、UGCを力強く拡散させ、購買に繋げる原動力となるのです。
したがって、企業アカウントがフォローし、関係性を築くべきは、有名人ではなく、自社の商品やサービスについて熱量をもって語ってくれる、ごく普通の、しかし熱心なユーザーなのです。
ULSSASを回す鍵②:UGCを意図的に生み出す「シャトレーゼ」の巧みな仕掛け
ULSSASを回すもう一つの鍵は、UGCが生まれやすい「仕掛け」を企業側が作ることです。本書では、お菓子メーカー「シャトレーゼ」の成功事例が紹介されています。
シャトレーゼは、質の高いフォロワーとの関係構築に加え、ユーザーが思わず真似したくなるような、参加型のコンテンツを公式アカウントから発信しました。
例えば、シャトレーゼのアイスを使ってお洒落なカクテルを作る動画を投稿。すると、それを見たユーザーが「私もやってみよう!」と実際にカクテルを作ってSNSに投稿します。これがUGCの発生です。
シャトレーゼの公式アカウントは、こうして生まれたUGCをすかさずリツイートします。 企業アカウントに自分の投稿がリツイートされるのは、ユーザーにとって嬉しい体験です。それを見た他のユーザーが「こんな投稿をすればリツイートされるのか!」と、さらにUGCを生み出していきます。
この好循環により、シャトレーゼは広告に頼らずともUGCの量を増やし、指名検索と売上を大幅に伸ばすことに成功したのです。
ここから学べるのは、 UGCを増やすことは、すなわち「良い商品・サービスを提供する」ことと直結している という事実です。シャトレーゼのアレルギー対応ケーキの開発秘話が、アレルギーに悩む親御さんたちの間で爆発的に拡散されたように、ユーザーが「これは素晴らしい!」「誰かに伝えたい!」と心から思えるものであって初めて、熱量の高いUGCは生まれるのです。
UGCがなければ作ればいい!「コンテンツマーケティング」の役割
では、BtoB商材や専門的なサービス、あるいは立ち上げたばかりの新商品のように、UGCが自然発生しにくい場合はどうすれば良いのでしょうか。
その答えが 「コンテンツマーケティング」 です。 UGCが生まれないのであれば、 UGCが生まれる「きっかけ」となるコンテンツを自ら作って発信すればいい のです。
例えば、著者が編集長を務めていたWebマーケティングメディア「ferret」は、まさにその好例です。 中小企業のWeb担当者が抱える悩みを解決するノウハウ記事を大量に発信することで、「Webマーケティングで困ったらferretを見ればいい」という信頼を勝ち取りました。
読者は記事(コンテンツ)を読んで課題を解決し、その内容をSNSでシェア(UGCの発生)します。そして、ferretというメディアや運営会社への信頼が高まり、最終的にはツールの利用やコンサルティングの申し込み(コンバージョン)に繋がっていったのです。
このように、自社の専門知識を活かして、ユーザーの悩みを解決したり、有益な情報を提供したりするコンテンツ(ブログ記事、動画、導入事例など)は、UGCの着火剤となります。 コンテンツマーケティングは、SNSマーケティングと組み合わせることで、その効果を最大限に発揮するのです。
「何を書けばいいかわからない」を解決するコンテンツの作り方
コンテンツマーケティングの重要性はわかっても、「自社の商品について、そんなに書くネタがない」と感じるかもしれません。しかし著者は、「書くことがない状態はあり得ない」と断言します。
自分たちにとっては当たり前のことであっても、ユーザーにとっては新鮮な驚きや発見に満ちていることは数多くあります。 ネジの製造会社がネジの溝の深さについて熱く語る。それこそが、ユーザーが求めるプロの視点なのです。
良いコンテンツを作る上で重要なのは、 「誰の、どんな悩みを解決するのか」 を明確にすることです。 そのために、具体的なユーザー像である 「ペルソナ」 を設定し、そのペルソナが商品を認知し、購入に至るまでの道のりを描いた 「カスタマージャーニーマップ」 を作成することが有効です。
「この段階のユーザーは、こんな情報を求めているはずだ」
「この記事は、購入を迷っている人の背中を押す役割を持たせよう」
このように、ユーザーの視点に立ってコンテンツの役割を設計することで、独りよがりではない、本当に「刺さる」コンテンツを生み出すことができます。
結論:小手先のテクニックはもう古い。マーケティングは「全体最適」で考えよう
本書を読み進めていくと、SNSマーケティングは単なる「Twitter運用」や「Instagram活用」といった部分的な施策ではないことに気づかされます。
リスティング広告、SEO、コンテンツマーケティング、そしてSNS運用。これらの施策はすべて、最終的に「自社の商品やサービスを顧客に届け、購入してもらう」という一つの目的に繋がっています。
しかし多くの企業では、それぞれの担当者が自分の領域のKPIだけを追いかける「部分最適」に陥りがちです。 大事なのは、 商品・サービスを中心において、すべてのマーケティング活動を俯瞰で捉え、「全体最適」の視点で戦略を組み立てること です。
そして、著者が最終的にたどり着く結論は、非常にシンプルかつ本質的です。
「いい商品やサービスを作り、それを評価してもらう」
UGCが起点となるULSSASの時代においては、顧客が「これを誰かに伝えたい!」と心から思えるような、優れた商品やサービスを持っていることこそが、最強のマーケティングなのです。
資本力に関係なく、本当に良いものが、それを必要としている人の元へ、誠実なコミュニケーションを通じて届いていく。本書は、そんな希望に満ちた、これからのマーケティングのあり方を示してくれる一冊です。