『勝つ投資 負けない投資』|投資の本質を学びたいビジネスパーソン必読の一冊
本書『改訂版 勝つ投資 負けない投資』は、65万円を150億円にした伝説の個人投資家・片山晃(五月)氏と、TOPIXなどの指標に対して「不敗」を誇る機関投資家・小松原周氏が、それぞれの立場で株式投資の本質を語り尽くした一冊です。
片山氏の「勝つ投資」では、企業の「変化」を捉え「想像力」を働かせることで大きなリターンを狙う、個人投資家ならではの機動力を活かした手法が明かされます。一方、小松原氏の「負けない投資」では、企業のファンダメンタルズを徹底的に分析し、本質的な価値を見極めることで、市場の混乱に動じない長期的な資産形成を目指す哲学が語られます。
この記事では、多忙なビジネスパーソンが明日から実践できる投資のヒントを得られるよう、本書の重要なエッセンスを具体的な事例を交えながら分かりやすく解説します。
本書の要点
- 投資の成功法は一つではない: 個人投資家と機関投資家、それぞれの立場における強みと弱みを理解し、自分に合った手法を見つけることが重要である。
- 「勝つ投資」の鍵は「変化」と「想像力」: 決算などの数字の変化の裏にあるストーリーを読み解き、企業の未来を想像する力が大きなリターンを生む。
- 「負けない投資」の基本は「本質的価値」の見極め: 株価は将来のキャッシュフローに収斂するという原則を理解し、社長の質や組織力といった企業の無形の価値を重視する。
- 「投機」ではなく「投資家」になる: 短期的な値動きを追う「投機」と、企業の成長価値にお金を投じる「投資」は明確に違う。成功には長期的な視点と「信念」「忍耐」が不可欠である。
- 市場のノイズに惑わされない: 日々の株価変動やマクロ経済のニュースに一喜一憂せず、自分が投資した企業の成長ストーリーを信じ抜くマインドセットが求められる。
はじめに:なぜ、今ビジネスパーソンに「投資」の知識が必要なのか?
「勝ち組」と「負け組」の二極化が社会問題として叫ばれて久しいですが、その根底には金融市場との付き合い方を知っているか否かという、シンプルな事実が存在します。
本書の著者の一人、小松原氏は語ります。
金融市場との付き合い方を知っている人、つまり正しい知識を持った投資家が「勝ち組」となり、金融市場との付き合い方を知らない人、つまり投資を行っていないか、あるいは間違った知識のもとで投資を行っている人が「負け組」となる。これが新しい世界のルールとなっているのです。
本書は、個人投資家として65万円を150億円にした片山晃(五月)氏と、機関投資家として負けない運用を続ける小松原周氏という、それぞれの立場のトッププレーヤーがタッグを組んだ画期的な一冊です。本書を通じて、単なるテクニックではない、投資の「オモテ」と「ウラ」を知り、これからの時代を生き抜くための必須教養を身につけましょう。
第1部:65万円を150億円に!個人投資家・五月氏が語る「勝つ投資」の神髄
オンラインゲーム廃人から伝説の投資家へ
片山氏の投資家としてのキャリアは、非常にユニークな経歴から始まります。専門学校を中退し、4年もの間オンラインゲームに没頭する、いわゆる「ネトゲ廃人」だった彼が、22歳の時に偶然テレビドラマで株の世界に出会います。
世の中にはこんなに面白い世界があったのか!
バイトで貯めた全財産65万円を握りしめ、彼は株式市場という「世界最大にして最高水準のオンラインゲーム」に足を踏み入れました。
当初はデイトレードで資産を増やしたものの、ライブドア・ショック後の相場で自分の限界を痛感します。自分が「カモ」になっていたと気づいた彼は、デイトレーダーとして一流にはなれないと悟り、新たな活路を模索します。
そして行き着いたのが、企業の業績をつぶさに見ていく「割安株への長期投資」でした。このスタイルが、後の小型成長株への集中投資へと繋がり、彼の資産を爆発的に増やす原動力となったのです。
投資で最も大事なのは「変化」と「想像力」
多くの投資家が「PERが低い」「PBRが低い」といった指標を頼りに割安株を探します。しかし、片山氏は「低PERや低PBRで買っても大きなリターンは得られない」と断言します。
なぜなら、純資産や安定的な利益は過去の結果であり、そこに「変化」がなければ株価は動かないからです。誰が見ても割安な株は、1年後も同じように割安なまま放置されている可能性が高いのです。
では、どこに着目すべきか?片山氏が最も重要視するのが「変化」と「想像力」です。
僕の「割安」の定義は、「その銘柄が将来実現すると考えられるEPSに対して現在の株価が割安かどうか」ということになります。
重要なのは、決算短信などで示される数字の「変化」です。例えば、それまで安定して10%の売上成長を続けていた企業が、ある年に突然20%の伸びを見せたとします。これが「変化」のサインです。
しかし、ただ変化に気づくだけでは不十分です。その変化がなぜ起きたのか、その背景を考え、未来を「想像」することが求められます。
本書で挙げられている「ラオックス」の事例は非常に示唆に富んでいます。
2014年当時、万年赤字企業だったラオックスの株価は、わずか半年で7倍に急騰しました。その背景には、中国人観光客をターゲットにした免税ビジネスへの事業転換の成功と、円安という追い風がありました。
多くの投資家が「また仕手株が動いているな」と見過ごす中、訪日外国人の増加とラオックスの事業転換という点と点を線で結び、その後の爆発的な業績回復を「想像」できた投資家だけが、大きな利益を手にできたのです。
個人投資家が持つべき「3つの武器」
機関投資家は豊富な情報量や企業経営者と直接対話できるメリットを持つ一方、「機動力のなさ」という弱点を抱えています。大きな資金を動かすため、流動性の低い小型株には投資しづらく、投資判断のプロセスも複雑で時間がかかります。
片山氏は、この機関投資家の弱点こそが、個人投資家が優位に立てるポイントだと語ります。
- 機動力: まだ注目されていない小型株を先に仕込み、人気化するのを待つことができる。
- 柔軟な資金管理: 相場が下がると思えば、株を売ってキャッシュポジションを高め、次のチャンスに備えることができる。
- 自由な発想: 自分の信念に基づき、大胆な集中投資で大きなリターンを狙うことができる。
これらの武器を最大限に活かすことが、「勝つ投資」の鍵となります。
第2部:プロはここを見ている!機関投資家・小松原氏の「負けない投資」の哲学
「投機」ではなく、本物の「投資家」になろう
小松原氏はまず、多くの人が混同しがちな「投機」と「投資」の違いを明確に定義します。
- 投機: パチンコや競馬のように「確率」にお金を投じること。手数料(控除率)が存在するため、続ければ続けるほど参加者の資金は減っていく「ゼロサムゲーム(マイナスサムゲーム)」。
- 投資: 企業の「価値」にお金を投じること。企業の成長によって新たな富が創造され、参加者全員が利益を得ることも可能な「プラスサムゲーム」。
短期的な値動きだけを追うデイトレードなどは「投機」に近い行為です。小松原氏は、目先の値動きに一喜一憂するのではなく、企業の価値成長と共に資産を育てる、本物の「投資家」になることの重要性を説きます。
株価は何で決まる?「理論株価」という最強の武器
では、企業の「価値」とは何でしょうか?小松原氏は、その答えが「理論株価」にあると解説します。
学術上は、将来に稼ぐ現金、いわゆるキャッシュフローを、今の価格に割引いた時の価格が「理論株価」になります。
少し難しく聞こえるかもしれませんが、要するに「その会社が将来にわたって生み出すであろう現金の総額を、現在の価値に換算したもの」が株価の本質だということです。日々の株価は様々な要因で変動しますが、中長期的にはこの「理論株価」に収斂していく、という揺るぎない事実があります。
この本質を理解していれば、市場がパニックに陥っても冷静でいられます。2008年のリーマン・ショックの際、日経平均が1,000円以上も暴落する中、小松原氏は出張先で工場見学を続けていました。
投資している企業の成長ストーリー(業績予想)が変わらない限り、企業価値(目標株価)は変わらない。よって足下の株価が下落しているからといって、見方が変わることはない──。
市場の混乱という外部要因によって株価が下がっても、企業の本質的な価値(稼ぐ力)が変わらない限り、慌てて売る必要はないのです。むしろ、それは絶好の買い場となり得ます。この「信念」と「忍耐」こそが、「負けない投資」の根幹をなすマインドセットなのです。
伸びる会社、伸びない会社のサインとは?
小松原氏は、会社の価値を見極める上で最も重要なのは「社長の質」だと断言します。会社の業績の8割以上は社長次第であり、どんなに優秀な社員がいても、舵取りを誤れば船は沈んでしまいます。
では、優れた経営者や伸びる会社にはどのような特徴があるのでしょうか。本書で紹介されている「伸びる会社のサイン」は、ビジネスパーソンにとっても自社や取引先を評価する上で非常に参考になります。
【伸びる会社の5つのサイン】
- 収益性が向上している: 営業利益率などが継続的に上昇しているのは、競争力が高まっている証拠。
- 経営者がROEの向上を意識している: 株主資本に対してどれだけ効率的に利益を上げているかを重視している。
- 収益性の高いところへ投資している: 稼いだお金を、より儲かる事業へ再投資する規律を持っている。
- 多くの人を幸せにしている: その会社の製品やサービスが、社会から支持されているか。
- ガバナンスがしっかりしている: 独立した社外取締役など、経営をチェックする機能が働いている。
逆に、「本業と関係ない事業を持っている」「中期経営計画に数値目標がない」「自社ビルを建設する」といった企業は、伸びない会社のサインである可能性が高いと警鐘を鳴らしています。
まとめ:明日からできる「勝つ投資、負けない投資」の第一歩
本書『勝つ投資 負けない投資』は、単なる投資手法の解説書ではありません。個人と機関、それぞれのトッププレーヤーの視点を通じて、株式投資という行為の「原理原則」を深く理解させてくれる一冊です。
コロナ・ショックを経て、個人投資家のレベルは格段に上がりました。もはや、かつてのような裏技的な手法や、誰かの見落としを突くようなやり方で勝ち続けることは困難になっています。
このような時代だからこそ、本書で語られる「未来を考え通す力」と「その未来を信じ切る力」という、投資の本質がより一層重要になります。
多忙なビジネスパーソンにとって、四六時中株価を追いかけることは不可能です。しかし、本書が示す長期的な視点に立てば、日々の値動きに振り回される必要はありません。
- 普段の生活や仕事の中で「なぜこれは流行っているのだろう?」と疑問を持つ。
- 気になる会社のウェブサイトを見て、社長がどんなメッセージを発信しているか読んでみる。
- その会社が「多くの人を幸せにしているか」を考えてみる。
こうした小さな一歩が、あなたの投資家としてのキャリアの始まりになります。本書は、その長い旅路において、何度も立ち返るべきバイブルとなるでしょう。