【超入門】難しいことはわかりませんが、お金の増やし方を教えてください!要約|忙しいビジネスパーソン向け NISA・iDeCo活用術
本書『超改訂版 難しいことはわかりませんが、お金の増やし方を教えてください!』は、お金の知識が全くない編集者の大橋弘祐氏が、経済評論家の山崎元(はじめ)氏に、素人でも実践できるお金の増やし方や使い方を教わる形式で書かれた入門書です。
難しい金融知識や特別な才能は一切不要で、誰でも簡単に始められる、極めてシンプルな方法が紹介されています。具体的には、「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」、通称「オルカン」と呼ばれる投資信託を、NISAやiDeCoといった税制優遇制度を活用して購入し、長期的に保有するというものです。
また、銀行や保険会社との付き合い方、持ち家購入の是非、保険の選び方など、人生における大きなお金の判断についても、合理的な考え方を学ぶことができます。本書を読むことで、お金に対する漠然とした不安から解放され、自信を持って資産形成に取り組む第一歩を踏み出せるでしょう。忙しいビジネスパーソンにこそ読んでほしい、お金の「原理原則」が詰まった一冊です。
- 本書の要点
- はじめに:将来のお金の不安、どうすればいい?
- いきなり結論!お金を増やすならコレ一択
- なぜ銀行に近づいてはいけないのか?
- 投資=ギャンブル?その誤解を解く
- 最強の投資法?インデックスファンド「オルカン」とは
- オルカン vs S&P500 論争に終止符?
- リスクを理解する:「リスクプレミアム」とは何か?
- やってはいけない投資・金融商品
- 人生最大の買い物「家」は買うべきか?
- 保険は本当に必要?見直すべきポイント
- 最強の節税制度「NISA」と「iDeCo」を使いこなす
- いつ、いくら投資すればいいのか?
- 投資したら、あとは「ほったらかし」?
- 【コラム】最速で大金持ちになる方法は?
- 【実践結果】8年続けた大橋氏のリアルな成果と反省
- まとめ:お金の心配から解放されるために
本書の要点
- お金を増やす基本は「全世界株式のインデックスファンド(オルカン)」一択。 難しい知識は不要で、これをNISAやiDeCoで購入し、長期保有するのが最も合理的。
- 銀行の窓口や保険会社のセールスには近づかない。 彼らは顧客のためではなく、自社の利益(高い手数料)のために商品を勧めてくることが多い。特に対面での金融商品購入は避けるべき。
- 保険は必要最低限に。 高額療養費制度があるため医療保険は基本的に不要。生命保険も、自分が死んだら家族が路頭に迷う場合のみ、ネットの掛け捨て型でシンプルに加入する。貯蓄型保険は選ばない。
- 持ち家購入は慎重に判断。 「家賃がもったいない」という理由だけで買うのは危険。資産の集中リスクや流動性の低さを理解し、賃貸と比較検討する。
- NISAとiDeCoは積極的に活用する。 税制優遇のメリットは非常に大きい。特にiDeCoは所得控除の効果もあるため、利用できる人は優先的に活用すべき。
はじめに:将来のお金の不安、どうすればいい?
「最近、お金のことばかり考えてしまう…」
本書の著者の一人、大橋弘祐氏は、37歳で大手通信会社から小さな出版社に転職したものの、給料は上がらず、税金や社会保険料は上がり、手取りは減る一方。貯金は退職金を含めて500万円ほど。将来、家族を持ち、家を買い、長い老後を過ごすことを考えると、漠然とした不安に襲われます。
「このまま会社に通い続けても、生活は楽にならないのでは?」
「投資は怖いけど、銀行預金じゃ全く増えない…」
「NISAって聞くけど、よくわからないし、なんだか難しそう…」
これは、多くのビジネスパーソンが抱える共通の悩みではないでしょうか?本書は、そんな大橋氏が、金融のプロ中のプロである経済評論家・山崎元先生に、「僕みたいなド素人でも、お金の心配をせずに生きていく方法」を教わるというストーリーで進んでいきます。
山崎先生の教えは、驚くほどシンプルで、誰でも実行可能なものでした。そして、その背景にある「なぜそうすべきなのか」という理由を理解すると、お金に対する考え方が変わり、日々の生活や人生の選択においても役立つ知恵が得られます。
いきなり結論!お金を増やすならコレ一択
大橋氏が恐る恐る山崎先生にお金の相談をすると、返ってきた答えはあまりにも明快でした。
「それなら、全世界株式のインデックスファンドを買って株式投資することだね。今なら、『eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)』という商品がいいね。それがベストだと思うよ。」
通称「オルカン」と呼ばれるこの投資信託。これが、山崎先生が推奨するお金の増やし方の結論です。
「え、それだけですか?」と拍子抜けする大橋氏。しかし、このシンプルな答えには、金融業界を知り尽くしたプロならではの深い理由が隠されています。
なぜ銀行に近づいてはいけないのか?
「お金を増やしたいなら、まずは銀行に近づかないほうがいい」と山崎先生は断言します。なぜなら、銀行、特に窓口でのビジネスは、顧客に手数料の高い金融商品(投資信託や保険)を売ることで利益を上げているからです。「無料相談」なども、結局は商品を売るための入り口に過ぎません。
銀行員は親身に相談に乗るふりをしながら、顧客のためではなく、銀行が儲かる商品を勧めてきます。「日本国債で大丈夫ですか?」などと不安を煽り、高コストな商品を契約させようとします。
では、当面使わないお金はどこに置いておくのが良いのでしょうか?山崎先生がまず推奨するのは「個人向け国債(変動金利型10年満期)」です。
- 元本保証: 国が保証しているので、元本が減ることはありません。
- 銀行預金よりマシな金利: メガバンクの定期預金金利が0.002%程度なのに対し、個人向け国債は変動金利で、市場金利に合わせて変動します(最低保証0.05%)。2023年10月時点では0.5%程度の利回りがありました。[cite: 2]
- 安全性: 銀行が破綻した場合、預金保護は1行あたり1000万円までですが、国債は国が保証しています。銀行より国の方が安全と言えます。
- 換金性: 購入後1年間は換金できませんが、それ以降は過去1年分の利息相当額をペナルティとして支払えば換金可能です。実質的な元本割れはありません。
この個人向け国債は、銀行でも買えますが、銀行は儲からないので積極的に勧めません。購入するなら、手数料が安く、余計な商品を勧められないネット証券(SBI証券や楽天証券など)を利用するのが賢明です。家電を店舗でなくネットで買うのと同じ理屈です。
投資=ギャンブル?その誤解を解く
「株は怖い」「ギャンブルだ」と思っている人は多いのではないでしょうか? 大橋氏も当初はそう考えていました。しかし、山崎先生は、パソコン画面に張り付いて頻繁に売買するようなデイトレードは「マニア向けの特殊なゲーム」であり、私たちがやるべき投資ではないと言います。
私たちがやるべきなのは「投資信託(ファンド)」を活用した投資です。投資信託とは、運用のプロが、たくさんの投資家から集めたお金をまとめて、株式や債券などに投資してくれる「詰め合わせパック」のようなものです。
投資信託のメリット:
- 分散投資が簡単にできる: 1つの投資信託を買うだけで、多くの企業や国に分散して投資できます。「卵は一つのカゴに盛るな」という格言の通り、リスクを低減できます。
- 少額から始められる: 100円からでも購入可能な商品もあります。
- 海外にも簡単に投資できる: 日本市場は世界の株式市場のほんの一部。投資信託なら、アメリカや新興国など、世界中の成長を取り込めます。
- 手間がかからない: 一度設定すれば、あとは基本的に「ほったらかし」でOK。忙しいビジネスパーソン向きです。
- 安全性: 投資したお金は、販売会社(証券会社など)や運用会社とは別の「信託銀行」で管理されているため、万が一、証券会社などが破綻しても、資産は守られます。
ただし、投資信託には注意点もあります。日本には5000種類以上もの投資信託がありますが、山崎先生によれば「99%は検討に値しないゴミ」だそうです。特に銀行や証券会社の窓口で勧められるものは、手数料が高い「ぼったくり商品」である可能性が高いのです。
最強の投資法?インデックスファンド「オルカン」とは
では、数ある投資信託の中で、なぜ「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」(オルカン)がベストなのでしょうか?
投資信託は、大きく「アクティブファンド」と「インデックスファンド」の2種類に分けられます。
- アクティブファンド: 運用のプロ(ファンドマネージャー)が、「これから伸びる!」と判断した銘柄を選んで投資する。市場平均を上回るリターンを目指す。
- インデックスファンド: 日経平均株価やTOPIX、アメリカのS&P500といった「株価指数(インデックス)」と同じような値動きを目指す。特定の指数に連動するように、機械的に銘柄を組み入れる。
山崎先生が推奨するのは、後者のインデックスファンドです。そして、その中でも「全世界の株式市場の平均点」を目指す指数に連動するのが「オルカン」なのです。
なぜインデックスファンド(オルカン)が良いのか?
- 手数料(コスト)が圧倒的に安い:
- 投資信託には主に「販売手数料(買うとき)」と「運用管理費用(信託報酬、持っている間ずっと)」がかかります。
- アクティブファンドは、プロが銘柄を選ぶ手間がかかるため、信託報酬が年率1%~2%と高めの商品が多いです。
- 一方、インデックスファンドは機械的に運用するため、コストを低く抑えられます。オルカンの信託報酬は年率約0.05775%(2023年9月時点)と激安です。[cite: 3] しかも、ネット証券なら販売手数料は無料です。
- このわずかなコスト差が、長期運用では大きなリターンの差となって現れます。
- 長期的に見て、ほとんどのアクティブファンドに勝つ:
- 意外に思われるかもしれませんが、長期(10年、20年)で見ると、市場平均(インデックス)を上回る成績を上げ続けられるアクティブファンドは、ほとんど存在しません。
- 短期的にはインデックスを上回るアクティブファンドもありますが、それが将来も続く保証はありません。どのファンドが良いかを事前に見抜くことも極めて困難です。
- 高い手数料を払いながら市場平均に負けるアクティブファンドよりも、低コストで常に市場平均点を取れるインデックスファンドの方が、長期的な資産形成には有利なのです。これは運用業界の「不都合な真実」と言われています。
オルカンの具体的な中身は?
オルカンは、「MSCI オール・カントリー・ワールド・インデックス」という、先進国と新興国を含む世界約50カ国、約3000銘柄の株式で構成される指数に連動を目指す投資信託です。[cite: 3]
- これを1つ買うだけで、世界中の主要企業の株主になれます。
- 構成比率は時価総額(企業の価値)に応じて決まり、定期的に見直されます。つまり、成長している企業の比率が自然に高まり、衰退した企業は除外されていく仕組みになっています。
- 2023年時点では、アメリカ企業の比率が約6割を占め、アップル、マイクロソフト、アマゾン、テスラといった巨大IT企業などが上位に入っています。日本企業はトヨタやソニーなどが含まれますが、全体の6%程度です。
つまり、オルカンを持っていれば、世界経済全体の成長の恩恵を、低コストかつ手間いらずで受け取ることができるのです。
オルカン vs S&P500 論争に終止符?
投資の話でよく話題になるのが、「オルカン(全世界株式)とS&P500(米国株式)、どっちがいいの?」という論争です。S&P500は、アメリカの主要企業500社の株価指数です。
「アメリカ経済は最強だから、S&P500だけでいい」という意見も根強くあります。たしかに過去30年ほどは、S&P500のリターンは全世界株式を上回っていました。
しかし、山崎先生はオルカン(全世界株式)を推奨します。その理由は以下の通りです。
- 過去の実績は未来を保証しない: 過去にS&P500が好調だったからといって、今後もそうだとは限りません。国ごとの盛衰は繰り返されます。
- オルカンにも米国株は十分含まれている: オルカンの約6割は米国株であり、S&P500に投資するのと実質的に大きな差はありません。
- 分散こそが基本: アメリカだけに集中投資するのは、特定の国に賭けることになり、インデックス投資の「広く分散する」という原則から外れます。「カントリーリスク」(その国の経済政策や税制変更などの影響)を避けるためにも、全世界に分散しておく方が合理的です。
結論として、よりシンプルで、分散が効いており、長期的な安心感があるのはオルカンだと言えるでしょう。
リスクを理解する:「リスクプレミアム」とは何か?
「投資はリスクがあるから怖い」と感じる人も多いでしょう。ここで言う「リスク」とは、一般的に「危険」という意味で使われますが、金融の世界では「不確実性=結果がどうなるかわからないこと(プラスになる可能性もマイナスになる可能性もあること)」を指します。
多くの人は、この不確実性を嫌います。だからこそ、株式投資のようにリスク(不確実性)を受け入れることに対して、その見返り(報酬)が期待できます。これが「リスクプレミアム」です。
山崎先生や多くの専門家は、株式投資のリスクプレミアムは、長期的に見て年率5%~6%程度あると考えています。これは、国債のようなリスクの低い資産の金利に上乗せされるリターンです。もちろん、毎年必ず5%増えるわけではなく、大きく増える年もあれば、減る年もあります。しかし、長い目で見れば、この程度のリターンが期待できる、というのが合理的な考え方です。
競馬や宝くじとの違い:
よく投資はギャンブルと比較されますが、本質的に異なります。
競馬や宝くじは、参加者全員のお金から胴元(運営者)が手数料(テラ銭)を差し引き、残りを分配する「ゼロサムゲーム(参加者全体ではマイナス)」です。期待値(平均的なリターン)は必ずマイナスになります(競馬は約-25%、宝くじは約-55%)。[cite: 2]
一方、株式投資は、企業が生み出す利益の一部を株主が受け取る「プラスサムゲーム」です。企業活動を通じて世の中に価値が生み出され、経済全体が成長すれば、投資家全体のリターンもプラスになることが期待できます。オルカンのようなインデックスファンドを持つことは、世界経済の成長に参加し、その果実(リスクプレミアム)を受け取ることなのです。
やってはいけない投資・金融商品
山崎先生は、オルカン(全世界株式インデックスファンド)と個人向け国債以外の金融商品には、基本的に手を出すべきではないと強調します。特に以下のものは避けるべきです。
- 外貨預金: 一見、日本円より金利が高く魅力的に見えますが、為替手数料が非常に高い(銀行によっては往復で2%近くかかることも!)。また、為替レートの変動リスクがあり、金利差以上に円高になれば損をします。「金利が高い通貨=得」とは限らず、為替レートは将来の金利差や変動リスクを織り込んで決まっているため、どちらが得かは事前にわかりません。銀行が手数料を稼ぐために、知識のない人に売りやすい商品です。
- FX(外国為替証拠金取引): 外貨預金と同様の理由に加え、レバレッジ(借金をして取引額を増やすこと)をかけることが多く、非常にハイリスクなギャンブルに近い取引です。
- 金(ゴールド): 金自体が価値を生み出すわけではありません。価格は需要と供給で決まるため、値上がり益を狙うのはギャンブル性が高くなります。株式のようなリスクプレミアムは期待できません。
- 仮想通貨(暗号資産): 金と同様に、それ自体が価値を生み出す裏付けが乏しく、価格変動が激しいため、投機(ギャンブル)的な側面が強いです。
- 手数料の高いアクティブファンドやラップ口座、仕組み預金など: 複雑で手数料が見えにくい商品は、基本的に避けるべきです。
シンプルに、低コストのインデックスファンドに長期投資する。 これが、凡人が資産形成で成功するための王道なのです。
人生最大の買い物「家」は買うべきか?
持ち家か賃貸か。これは多くの人が悩むテーマです。山崎先生は、「家賃を払うのがもったいないから買う」という短絡的な思考は危険だと指摘します。持ち家には以下のようなデメリットやリスクがあることを理解しておく必要があります。
- 資産が集中するリスク: 数千万円もの資産が、特定の場所にある不動産という単一の資産に集中してしまいます。地震などの災害、近隣トラブル、地域の衰退などで、資産価値が大きく下落するリスクがあります。
- 流動性が低い: 株のように簡単に売買できません。売りたいときにすぐに買い手が見つかるとは限りませんし、売買には仲介手数料などのコストもかかります(売買で合計6%程度かかることも)。急にお金が必要になったときに対応しにくいです。
- 価値が下がる可能性: 日本は人口減少社会であり、都心の一部を除けば、不動産価値が将来的に上がっていくとは限りません。建物は経年劣化します。
- 自由度が下がる: 転勤、転職、離婚、家族構成の変化など、ライフスタイルの変化に対応しにくくなります。
一方で、持ち家のメリットもあります。
- 家賃を払わなくて済む: 同じ場所に長く住み続けるなら、トータルコストは賃貸より安くなる可能性があります。
- 住宅ローン控除: 税制優遇を受けられます。
- 団体信用生命保険(団信): ローン契約者が死亡・高度障害になった場合にローン残高がゼロになる保険に加入できます(これはメリットともデメリットとも言えます)。
- 強制的な貯蓄効果: ローン返済があるため、無駄遣いが減るかもしれません。
結論として、持ち家購入は、これらのメリット・デメリット、そして自身のライフプランや価値観(定住志向か、自由度重視か)を総合的に考慮して、慎重に判断すべきです。 もし買うのであれば、新築マンションの価格には多額の広告費や利益が上乗せされていることを理解し、「不動産屋になったつもり」で中古物件なども含めて徹底的に情報を集め、割安な物件を探す努力が必要です。
保険は本当に必要?見直すべきポイント
「万が一のために…」と、なんとなく保険に入りすぎていませんか?山崎先生は「保険には可能な限り近づかないのが大原則」と言います。なぜなら、保険は加入者全体で見れば、保険会社の運営コストや利益が上乗せされているため、確率的には必ず損をする仕組み(損な儲け)だからです。
保険は、「起こる確率は低いけれど、起こってしまうと経済的に破綻してしまうようなリスク」にだけ、必要最低限で備えるべきものです。具体的には、自動車保険(対人・対物無制限)や火災保険(家財)などです。それ以外の保険は、基本的に不要か、もっと合理的な方法で備えることができます。
見直すべき保険:
- 医療保険・がん保険: 基本的に不要です。日本には「健康保険」があり、「高額療養費制度」によって、ひと月あたりの医療費の自己負担額には上限が定められています(年収500万円の人なら月8~9万円程度)。[cite: 3] がんなどの大きな病気になっても、保険適用内の治療であれば、医療費で破産することはまずありません。保険料を払う代わりに貯蓄しておき、いざというときに使う方が合理的です。がん保険も同様で、「2人に1人ががんになる」からこそ、保険でなく貯蓄で備えるべきです。
- 貯蓄型保険(養老保険、学資保険、個人年金保険など): 絶対に避けるべきです。「保障も貯蓄も」とうたっていますが、保障部分は割高で、貯蓄部分は運用利回りが非常に低い(保険会社の手数料が大量に引かれているため)です。保障は掛け捨ての保険で、貯蓄・運用はNISAやiDeCoで低コストのインデックスファンドで行う方が、はるかに効率的です。「保険」と「貯蓄・運用」は分けて考えるのが鉄則です。
- 生命保険(死亡保険): 本当に必要な人だけ加入を検討します。それは、「自分が死亡した場合に、残された家族(特に未成年の子供や専業主婦/主夫の配偶者)が経済的に困窮してしまう」ケースです。独身者や、共働きで配偶者も収入がある場合、十分な貯蓄がある場合などは、基本的に不要です。必要だとしても、遺族年金(国から支給される)の額も考慮し、必要保障額は最低限に抑えるべきです。加入するなら、保険料の安いネット系の保険会社で、保障期間を子供が独立するまでなどに限定した「掛け捨て型」の「定期保険」を選び、特約などはつけないシンプルなものにします。保障額の目安は「残される家族の人数 × 1000万円」程度です。
保険料を節約できた分は、貯蓄や投資に回し、自分自身で「万が一」に備える方が、トータルで見て有利になる可能性が高いのです。
最強の節税制度「NISA」と「iDeCo」を使いこなす
オルカン(インデックスファンド)への投資を始めるにあたり、ぜひ活用したいのが「NISA(ニーサ)」と「iDeCo(イデコ)」という税制優遇制度です。これらは、国が国民の資産形成を後押しするために設けた、非常にお得な「器(うつわ)」です。
NISAとは?
NISAは、投資で得た利益(値上がり益や分配金)が非課税になる制度です。通常、投資の利益には約20%の税金がかかりますが、NISA口座内で投資すれば、それがまるまる手元に残ります。
2024年から始まった新NISAでは、制度が大幅に拡充されました。
- 非課税投資枠:
- つみたて投資枠: 年間120万円まで(金融庁が厳選した低コストの投資信託などが対象)
- 成長投資枠: 年間240万円まで(上場株式や幅広い投資信託などが対象)
- 合計で年間最大360万円まで投資可能。
- 生涯非課税限度額: 最大1800万円(簿価ベース)。枠は再利用可能。
- 非課税保有期間: 無期限。
NISAの活用ポイント:
- オルカンはどちらの枠でも買える: 「つみたて投資枠」と「成長投資枠」がありますが、難しく考えず、どちらの枠を使っても良いので、とにかくオルカンを買う、とシンプルに考えましょう。証券会社が「コア・サテライト戦略」などと言って、成長投資枠で個別株やアクティブファンドを勧めてきても、無視してOKです。
- 旧NISAをやっていた人は?: 2023年までの旧NISA(一般NISA、つみたてNISA)で投資していた分は、新NISAとは別枠で非課税期間が続くので、売却せずにそのまま保有し続けましょう。
- どこで始める?: SBI証券や楽天証券などのネット証券でNISA口座を開設します。
iDeCo(個人型確定拠出年金)とは?
iDeCoは、自分で掛金を拠出し、自分で運用方法を選んで、将来(原則60歳以降)に年金または一時金として受け取る私的年金制度です。NISAと同様に運用益が非課税になるだけでなく、さらに強力な税制メリットがあります。
iDeCoのメリット:
- 掛金が全額所得控除: 毎月支払う掛金が、その年の所得から全額控除されます。これにより、所得税・住民税が軽減されます。年収や掛金額によりますが、例えば年収600万円の会社員(企業年金なし)が上限額(月2万3000円)を拠出すれば、年間約5.5万円もの節税になります。[cite: 4] これはNISAにはない大きなメリットです。
- 運用益が非課税: NISAと同様、運用期間中に得た利益には税金がかかりません。
- 受け取り時も税制優遇: 将来、年金や一時金として受け取る際にも、公的年金等控除や退職所得控除といった控除が適用され、税負担が軽減されます。
iDeCoの注意点:
- 原則60歳まで引き出せない: 老後資金形成のための制度なので、途中解約は基本的にできません。
- 加入資格・掛金上限額がある: 職業や勤務先の企業年金の状況によって、加入できるか、いくらまで掛けられるかが異なります(会社員は月1.2万~2.3万、自営業者は月6.8万など)。[cite: 4]
- 手数料がかかる: 加入時や毎月の運用に、一定の手数料がかかります(国民年金基金連合会や信託銀行に支払うものなど)。ただし、SBI証券や楽天証券など、金融機関(運営管理機関)独自の手数料は無料のところを選ぶべきです。
iDeCoの活用ポイント:
- まず会社に確認: 会社員の方は、まず自分の会社に企業年金制度(企業型DCや確定給付年金)があるかを確認しましょう。それによってiDeCoの掛金上限額が変わります。
- 優先順位: 税制メリット(特に所得控除)が大きいiDeCoを優先的に、上限額まで活用し、さらに余裕があればNISAを活用するのが基本戦略です。
- 何を買う?: iDeCoの運用商品も、NISAと同様に低コストの全世界株式インデックスファンドを選びましょう(オルカンそのものがない場合でも、同様の商品が用意されています)。
- どこで始める?: SBI証券や楽天証券などのネット証券でiDeCo口座を開設します(NISA口座とは別に開設が必要です)。
NISAもiDeCoも、長期的な資産形成において非常に有利な制度です。多少手続きが面倒に感じても、積極的に活用しましょう。
いつ、いくら投資すればいいのか?
オルカンをNISAやiDeCoで買う、と決めたら、次に悩むのが「いつ」「いくら」買うかです。
投資タイミング:「今すぐ」が原則
「株価が高いから、下がってから買おう」「景気が悪くなりそうだから、今は様子見しよう」…そう考える人は多いですが、株価の未来を予測することはプロでも不可能です。
「安いときに買って、高いときに売る」のが理想ですが、それが実行できる人はいません。むしろ、タイミングを計ろうとすることで、投資の機会を逃してしまう(リスクプレミアムを得る機会を失う)ことになりがちです。
したがって、投資すると決めたら、タイミングを気にせず「今すぐ」始めるのが最も合理的です。
投資額の決め方:
- 生活防衛資金を確保する: まず、万が一の失業や病気に備え、最低3ヶ月分(できれば半年~1年分)の生活費を、いつでも引き出せる普通預金などで確保します。このお金には絶対に手を付けません。
- 余剰資金で投資する: 生活防衛資金を除いた「当面使う予定のないお金(余剰資金)」で投資を行います。
- リスク許容度を考える: オルカン(株式投資)は、長期的にはリターンが期待できますが、短期的には値下がりするリスクがあります。山崎先生は、最悪の場合、1年間で投資額の1/3程度が減る可能性も考えておくべきだと言います。[cite: 3] この値下がりを受け入れられるかどうかが「リスク許容度」です。
- ヤマザキ方式(合理的): 余剰資金は全額オルカンに投資する。これが最も期待リターンが高い方法。
- オオハシ方式(心配性向け): どうしても全額株式が怖い人は、余剰資金の半分をオルカン(攻めのお金)、半分を個人向け国債(守りのお金)にするなど、自分が安心できる配分にする。ただし、これはあくまで精神的な安定のためであり、合理性では劣ります。
一括投資 vs 積立投資:
- まとまったお金がある場合: 合理的に考えれば、「一括投資」が最も期待リターンが高くなります。早く投資した分だけ、お金が働いてくれる期間が長くなるからです。
- 毎月コツコツ貯める場合: 給料などから毎月決まった額を投資していく「積立投資」になります。
- 一括投資が怖い場合: まとまったお金があっても、一度に大きな金額を投資するのが精神的に怖い場合は、「分割して積立投資」するのも一つの手です。ただし、これはリスクを取るのを先延ばしにしているだけであり、「気休め」であることは理解しておきましょう(山崎先生は「首にネギを巻く程度」と表現)。[cite: 2]
積立投資の場合は、証券会社のサイトで一度設定すれば、毎月自動で買い付けてくれるので手間がかかりません。
投資したら、あとは「ほったらかし」?
投資を始めたら、日々の値動きに一喜一憂せず、基本的には「ほったらかし」にしておくことが大切です。
複利の効果を味方につける:
投資で得た利益が、さらに次の利益を生むことを「複利」と言います。アインシュタインが「人類最大の発明」と呼んだとも言われるほど、長期投資において強力な効果を発揮します。
例えば、毎月5万円を年利5%で30年間積み立て投資した場合、元本1800万円に対し、運用収益は約2300万円となり、合計で約4100万円にもなります。[cite: 3]
この複利の効果を最大限に活かすには、長く投資を続けることが何よりも重要です。途中で売ったり買ったりせず、じっと持ち続けることが大切なのです。
「72の法則」を覚えておくと便利です。
72 ÷ 金利(%) = お金が2倍になるおおよその年数
例えば、年利5%なら、72 ÷ 5 = 14.4年。約14~15年で資産が2倍になる計算です。
売却タイミングは?
では、いつ売ればいいのでしょうか?答えは「お金が必要になったとき」です。
- 子供の学費、家の購入資金、起業資金など、ライフイベントでまとまったお金が必要になったときに、必要な分だけ売却します。
- 「買ったときより値下がりしているから売りたくない」と考える必要はありません。お金が必要なタイミングで躊躇なく使うことが大切です。
- 老後の取り崩し方: 65歳でリタイアし、95歳まで生きると仮定(30年間)。
- 65歳時点の総資産額を30で割った額を、その年の生活費として取り崩す(売却する)。
- 翌年(66歳)は、残りの資産額を残りの年数(29年)で割った額を取り崩す。
- これを毎年繰り返します。
- この方法なら、資産寿命を延ばしながら計画的に使うことができます。リタイア後も運用は続け、オルカンと国債を持っている場合は、比率を維持するように両方から取り崩します。
【コラム】最速で大金持ちになる方法は?
本書で紹介されているインデックス投資は、再現性が高く、着実に資産を築ける方法ですが、若いうちに一気に大金持ちになるのは難しいかもしれません。
山崎先生が若者向けに提案する「早く大金持ちになる方法」は、「ストックオプションをもらえる会社で働くこと」です。[cite: 4]
- レバレッジ(借金)投資のリスク: 借金をして投資額を増やせばリターンも大きくなりますが、失敗したときの損失も甚大になり、再起不能になる可能性があります。
- ストックオプションの魅力: ベンチャー企業などで、将来の株価上昇を期待して、給料の一部として自社株を購入する権利(ストックオプション)をもらう働き方です。会社が成功して上場すれば、莫大な利益を得られる可能性があります。
- 失敗しても傷が浅い: もし会社がうまくいかなくても、失うのは主にその職であり、借金を背負うわけではありません。転職して再チャレンジできます。
- 人的資本の活用: 若いうちは、お金は少なくても「働く能力(人的資本)」という大きな資産を持っています。この人的資本を活かして、リスクを取って大きなリターンを狙うのは合理的な戦略です。
ただし、これはハイリスク・ハイリターンな道であり、安定志向の人には向きません。確実性を重視するなら、コツコツとインデックス投資を続けるのが賢明です。
【実践結果】8年続けた大橋氏のリアルな成果と反省
本書の初版が出版されたのは2015年。当時、山崎先生の教えに従って投資を始めた大橋氏は、8年後(2023年時点)どうなったのでしょうか?
結果として、投資した資産は大きく増えました!
しかし、大橋氏には後悔もあると言います。[cite: 4]
- NISAでの失敗: 最初の年は言われた通り投資したものの、翌年以降、「もっと安いタイミングで買おう」と欲を出してしまい、タイミングを計ろうとした結果、買う機会を逃してしまいました。特に2020年のコロナショック時には、「もっと下がるはずだ」と怖くて買えず、その後の株価急騰の恩恵を受けられませんでした。
- iDeCoでの成功: 一方、iDeCoは毎月自動で積み立てられるため、タイミングを計ることなく続けられ、着実に資産が増えていきました。
この経験から大橋氏は、「素人がタイミングを計ろうとしても無駄。機械的に積み立てるのが一番」という教訓を痛感したそうです。
最終的に、大橋氏の運用成績(2023年10月時点)は、NISAと通常口座、iDeCoを合わせて約700万円の投資に対し、約447万円のプラスとなりました。しかし、もし山崎先生の教え通り、タイミングを計らずに毎年コツコツ投資していれば、プラスは約855万円になっていたと試算されています。
このリアルな体験談は、私たちに多くの示唆を与えてくれます。
まとめ:お金の心配から解放されるために
本書を通じて山崎先生が一貫して伝えているのは、「株式(リスク)を過度に怖がらず、上手に付き合おう」ということです。
ピケティが指摘するように、資本(株など)から得られるリターンは、労働から得られるリターンよりも大きい傾向があります(r > g)。しかし、オルカンのような低コストのインデックスファンドと、NISA・iDeCoのような制度のおかげで、誰もが簡単に「資本家」サイドに回り、世界経済の成長の恩恵を受けることができる時代になりました。
お金を増やすためにやるべきことは、驚くほどシンプルです。
- 生活防衛資金を除いた余剰資金で、低コストの全世界株式インデックスファンド(オルカン)を買う。
- NISAとiDeCoを最大限活用する。
- 買ったら、長期で保有し続ける(ほったらかし)。
- 銀行や保険会社のセールストークに惑わされない。
- (最も重要かもしれない)ちゃんと働くこと。
最後の「ちゃんと働く」というのは、単に給料を得るためだけではありません。自分のスキルを高め、「人的資本」の価値を上げることは、最も安全で効率的な投資です。また、どんな状況でも働ける能力は、将来何が起こるかわからない時代の「最強の保険」にもなります。お金の運用で多少失敗しても、働く力があれば人生はなんとかなる、という考え方は、私たちに勇気を与えてくれます。
本書の知識を身につけ、最初の一歩を踏み出せば、お金に対する漠然とした不安は消え、より豊かで充実した人生を送ることができるはずです。ぜひ、このシンプルで合理的な方法を実践してみてください。