目的ドリブンの思考法|コンサルが教える成果最大化の「型」
本書『目的ドリブンの思考法』は、コンサルタントである望月安迪氏が、仕事で確実に成果を出すための普遍的な思考の「型」を解説した一冊です。多くのビジネスパーソンが日々の業務(What)に追われ、本来の目的(Why)を見失いがちですが、本書はその 「何のために(Why)」から始めることの重要性 を説きます。
具体的には、成果創出のストーリーを描くための 〈目的 Why ─ 目標 What ─ 手段 How〉という三層ピラミッド構造 と、その手段を効果的に実行するための 〈予測・認知・判断・行動・学習〉という5つの基本動作 を、具体的なケーススタディを交えながら体系的に解説しています。
この思考法を身につけることで、忙しいビジネスパーソン、特にリーダーは、VUCAと呼ばれる不確実な時代においても、最小の労力で最大の成果を生み出す ことが可能になります。本記事では、そのエッセンスを具体的な事例とともにご紹介します。
はじめに:「何のために」が成果を左右する
あなたは今、仕事で「何」をしていますか? 新商品の企画、顧客リスト作成、生産計画の見積もり…。多くの人は自分が「何をしているか(What)」はすぐに答えられます。しかし、著者がコンサルタントとして働き始めた当初、議事録作成や市場調査といったタスクを懸命にこなしても、先輩からは「で、結局何が言いたいの?」「次のアクションは?」と厳しいフィードバックを受けたと言います。
[source: 1] 原因はシンプルでした。 「何のために(Why)」その仕事をしているのか を理解していなかったのです。議事録は単なる記録ではなく、共通認識を醸成し次の行動を促すためのもの。市場調査は情報を集めるだけでなく、戦略立案への示唆を出すためのもの。この「目的」が欠けていては、どれだけ努力しても成果には繋がりません。
[source: 1] 著者は 「仕事で失敗したければ、目的を忘れ去ってやればいい」 と皮肉を込めて語ります。目的を失った仕事は、どれだけ労力を費やしても価値を生みません。逆に言えば、 「目的をつねに意識の主軸に置けば、仕事は成功する」 のです。
成果創出のフレームワーク:〈目的─目標─手段〉の三層ピラミッド
[source: 1] では、どうすれば目的を主軸に成果を出せるのか? 本書はそのためのフレームワークとして 〈目的─目標─手段〉の三層ピラミッド構造 を提示します。
- 目的 (Why): 何のために? – 仕事が目指す究極の価値、未来の到達点。
- 目標 (What): 何を目指して? – 目的達成のための中間地点(マイルストーン)。
- 手段 (How): どのように達成するか? – 目標達成のための具体的な方法、アクション。
[source: 1, 4] この三層が「何のために?(Why)」と「どのように?(How)」で一貫して繋がっている状態こそが、成果を生み出すストーリー、すなわち 戦略 となります。「この目的を達成するために、これらの目標を設定し、具体的な手段としてこれを実行する」という筋道を明確に描けるようになるのです。
[source: 1] このストーリーを描くことは、特にチームを導くリーダーに課せられた 「非連続な責務」 です。単に作業をこなすだけだったメンバーがリーダーになった時、このストーリー構想力が求められます。本書は、その責務を乗り越えるための 戦略的思考の「型」 を提供します。
VUCA時代に不可欠な「バックキャスト思考」
[source: 2] なぜ今、これほどまでに「目的」が重要なのでしょうか? それは現代が VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性) の時代だからです。過去の延長線上に未来を描く 「バックミラー思考」 はもはや通用しません。
[source: 2] リンカーンの言うように「未来を予測する最良の方法は、それを創り出すこと」です。つまり、 まず望む未来(=目的)を描き、そこから現在を振り返って実現手段を考える「バックキャスト思考」 が不可欠なのです。目的は、このバックキャスト思考の起点そのものです。
「目的」とは何か?どう設定するか?
[source: 1] 本書における「目的」の定義は 「新たな価値を実現するために目指す未来の到達点」 です。これは、単なる「業務の完了」とは異なります。目的が達成されて初めて「成果」とみなされるのです。
[source: 1] 目的が不在だと、
- 対処すべき問題が分からない
- 優先順位を判断できない
- 行動が的外れになる
- 組織やチームを動かせない
といった深刻な 問題解決不全 に陥ります。
[source: 2] では、どう目的を設定するか? 本書はその実践ステップを示します。
- 上位目的とその背景を押さえる: 自分の仕事が、組織全体のどの目的(上位目的)に貢献するのか、そしてその目的が生まれた背景(問題意識)は何かを理解します。背景を理解しないと、目的を誤解し、的外れな行動につながりかねません。
- 「ポジション」と「時間軸」で目的の広がりを押さえる: 組織における自分の立場(ポジション)と、目的達成までの期間(時間軸)を踏まえ、適切なレベル・範囲の目的を設定します。壮大すぎても、矮小すぎてもいけません。
- 「何のために」を問い、文字に落とす: 自分自身の「~すべき(使命)」や「~したい(意志)」を源泉に、「何のために?」と自問し、腹落ちするまで考え、目的を言語化します。「もし、その仕事がなくなったらどうなるか?」という 「裏の問い」 も有効です。
- 上位者と目的をすり合わせる: 設定した目的が上位目的とズレていないか、上司や関係者と確認します。これにより、無駄な努力を防ぎ、目的設定の質を高めることができます。
[source: 2] Case Studyでは、新商品開発のリーダーが「既存製品カテゴリーの成熟化」という背景を踏まえ、「新たな成長の源泉を生み出す」という上位目的に対し、「既存顧客への理解」という自身の強みを活かせる 「既存顧客層に新商品を提供し、未開拓需要を喚起する」 ことを自チームの戦略的意図(目的)として設定するプロセスが描かれています。
[source: 2] 目的の設定は、その後の行動や成果に連鎖的に影響を与える 「カスケード・エフェクト」 を持ちます。設定する目的次第で、チームや組織の将来の姿さえ変わるのです。
目的から「目標」への落とし方
[source: 3] 目的が定まったら、次はそれを具体的な 「目標」 に落とし込みます。目的が「到達点」なら、目標はそこに至る 「中継地点(マイルストーン)」 です。目標設定には以下の効能があります。
- 抽象的な目的を実務レベルに具体化する
- 有効な対策を体系的に洗い出す土台となる
- リソース(ヒト・モノ・カネ)の集中を可能にする
- 達成感や成長実感を与え、モチベーションを高める
[source: 3] 目標設定の基本は、目的を 「構成要素」 と 「時間軸」 で切り分けることです。「英語を身につける」という目的なら、「リスニング」「スピーキング」などに分解し(構成要素)、「いつまでに」という期限を設定します(時間軸)。
[source: 3] 大きな目標は 「困難は分割せよ」 の原則に従い、達成可能な小目標にブレークダウンします。目標設定の実践ステップは以下です。
- 目的を「構成要素」に分解する: 「営業生産性の向上」なら「顧客当たり売上高」「販売顧客数」などに分解します。KPIツリーの作成にも通じます。
- 構成要素に目標水準と期限を与える: 「平均販売単価を1年後に10%向上」のように設定します。目標水準は、メンバーの意欲とリーダーの意思をすり合わせ、「ストレッチ」ゾーン(無理なく達成できる以上、不可能ではないレベル)を目指すのが基本です。
- 「SMART」の視点で目標を精査する: 設定した目標が Specific(具体的か)、Measurable(測定可能か)、Achievable(達成可能か)、Relevant(目的と整合しているか)、Time-bound(期限が明確か)を確認します。
[source: 3] Case Studyでは、新規顧客営業が未経験の部下(山田さん)に対し、「3か月で新規顧客15件獲得」という大目標を、営業パイプライン(見込顧客→商談案件→受注案件)の考え方で「見込顧客数」「商談実施率」「受注率」に分解。さらに月ごとに「立ち上げ期」「改善期」「定着期」と意味づけし、段階的な小目標を設定する例が示されます。
「手段」:目的達成のエンジン「5つの基本動作」
[source: 4] 目的と目標が定まっても、それを実現する 「手段」 がなければ絵に描いた餅です。手段とは、目的・目標と現状のギャップを埋める ための具体的な方法であり、戦略の核心です。
[source: 4] 本書では、この「手段」を効果的に講じるための普遍的な思考・行動プロセスとして 「5つの基本動作」 を提示します。これは単なるフレームワークではなく、体得すべき 「型」 です。
- 認知 (Cognition):解くべき「正しい問題」を見極める
- [source: 5] 問題 = 目標と現状のギャップ。目標がなければ問題に気づけません。
- [source: 5] 数ある問題から、インパクト(目標達成への貢献度)×解決可能性 で優先順位をつけ、「選択と集中」を行います。
- [source: 5] 問題解決の本質は「因果関係の操作」。問題の表面だけでなく、「なぜ?」を繰り返し問い、真因(根本原因) を特定することが重要です。
- [source: 5] Case Studyでは、職場の生産性向上という目的に対し、「生産性向上の公式」で目標(付加価値時間割合、スピード、精度)を分解し、現状とのギャップから「仕事の精度が低い」という優先課題と、その原因(上長との認識合わせ不足など)を特定します。
- 判断 (Judgment):最良の結論に最速でたどりつく
- [source: 6] 判断 =「すること」と「しないこと」を分かつこと。
- [source: 6] 優れた判断は 「質(目的・目標達成への貢献度)」×「スピード」 で決まります。VUCA時代では過去の成功体験は通用せず、目的・目標を「判断軸」 に据えることが質の高い判断につながります。
- [source: 6] 実践ステップ:①問題の根本原因に対する「対応方針」を定める → ②方針をブレークダウンし、対策案(オプション)を幅広く洗い出す → ③目的・目標から「判断軸」を抽出し、重みづけする → ④判断軸に照らして実行策を決定する(オプション・マトリクス活用)。
- [source: 6] Case Studyでは、プロジェクトの繁忙に対し、「スコープ」「リソース」「期間」の選択肢を検討。「サブリーダー(井上さん)の成長」を最重要の判断軸とし、「スコープの見直しを本人に考えてもらう」ことを判断します。
- 行動 (Action):無駄なく成果を得るアクションを導き、実行する
- [source: 7] アクションは 「正しさ(目的・目標との整合性)」×「スピード」 で評価されますが、「アクショナブル(実行可能か)」 であることも重要です。指示はメンバーの力量に合わせて具体性を調整します。
- [source: 7] メンバーを動かすには、What/Howだけでなく Why(何のために)をストーリーとして伝える ことが不可欠です。
- [source: 7] 実践ステップ:①実行策をHow?の問いで具体的なアクションに分解する → ②〈目的─目標─手段〉の繋がりを確認する → ③アクションを行動計画(ガントチャート等)に仕立てる(依存関係も明確に) → ④アクションをメンバーに 「任せる(デリゲーション)」。
- [source: 7] Case Studyでは、新設の市場調査部隊の役割(Plan, Input, Process, Output)を目的・目標から分解し、具体的なアクションを定義。そこから必要な人員(4名)を見積もり、実行体制を設計します。組織体制も目的・目標に従うのです。
- 予測 (Prediction):未来の問題(リスク)を先読みし、先手を打つ
- [source: 8] 問題が発生する前に手を打つ ことが最も効率的な問題解決です。
- [source: 8] リスクは「目的」があるから生まれ、「手段」に取りついて目的達成を阻害します。
- [source: 8] リスクの特定は「〇〇(手段)に対するリスクは何か?」と問うことで行います。
- [source: 8] リスク対処の優先順位は 「インパクト(脅威度×脆弱性)」×「発生確率」 で評価します(リスク・マトリクス)。
- [source: 8] リスクへの対策は 「軽減」「回避」「移転」「受容」 の4つの視点で考えます。
- [source: 8] Case Studyでは、新入社員(中村さん)の資料作成業務について、手順(対象把握→データ収集→グラフ化→資料化)ごとにリスク(データ収集先不明、利益率定義の誤解など)を洗い出し、ダブルチェック等の対策を講じます。
- 学習 (Learning):既知から未知を知り、学びをレバレッジする
- [source: 9] 学習の本質は「転用(レバレッジ)」。経験からパターンを見出し、新しい場面に応用することです。
- [source: 9] 特に重要なのが、「ヨコ展開の学習」。他の領域の学びを今の課題に活かすことです。カギは 「抽象化」。
- [source: 9] ヨコ展開は 「アナロジー(類推)」 によって行われます。「未知(知りたいこと)」と「既知(知っていること)」を 「共通目的(類似性)」 でつなぎ、既知から未知への示唆を引き出します。
- [source: 9] 実践ステップ:①問題の外部に意識を開き、アナロジーの可能性に気づく → ②「何のため?」と問い、共通目的を引き出す(抽象化)→ ③共通目的を手がかりに既知(関連事例)を思い起こす → ④既知から未知への示唆を引き出す。
- [source: 9] Case Studyでは、「部下を育てる」という未知の課題に対し、「対象を成長させ成果を生む」という共通目的で「植物を育てる」という既知と結びつけ、「健康な種(ミッション付与)」「環境整備(個性に合わせた環境)」「水・肥料(知識・褒賞)」「剪定(問題点の指摘と強みの育成)」といった示唆を得ます。
- [source: 9] LaX(Learn as X:~として学ぶ) の技法を使えば、あらゆる経験が成長の糧になります。
まとめ:目的ドリブンで未来を切り拓く
本書『目的ドリブンの思考法』は、単なる思考テクニック集ではありません。VUCAの時代を生き抜き、リーダーとして成果を出し続けるための、普遍的かつ実践的な「型」 を示しています。
〈目的─目標─手段〉の三層構造で成果への道筋を描き、〈予測・認知・判断・行動・学習〉の5つの基本動作でその実現を確実なものにする。この「目的ドリブン」のアプローチを体得することで、あなたは日々の仕事に追われる状態から脱却し、主体的に未来を創り出す ことができるようになります。
忙しいビジネスパーソン、特にこれからリーダーシップを発揮していきたいと考える方にとって、本書は 思考のOS をアップデートし、仕事の質と成果を飛躍的に高めるための強力な武器となるでしょう。「何のために?」という問いを常に中心に据え、本書で示された「型」を実践することで、あなた自身の成長、そしてチームや組織の成長を力強くドライブしていってください。