髙橋洋一『財務省、偽りの代償』- なぜ「国家財政は破綻しない」と断言できるのか?
本書『財務省、偽りの代償 国家財政は破綻しない』は、元財務官僚である著者・髙橋洋一氏が、「日本の財政は破綻寸前だ」という世間一般の常識は、財務省によって巧みに作られた「偽り」であると断じ、そのカラクリを徹底的に解説した一冊です。
本書を読めば、「国の借金」の本当の意味、財務省が増税に固執する真の理由、そして日本の財政を本当に健全化するための道筋が明確に理解できます。日々報じられる経済ニュースの裏側を読み解き、自身のビジネスや資産形成に役立てたいと考える、すべてのビジネスパーソンにとって必読の書と言えるでしょう。
本書の要点
- 「国の借金1200兆円」は嘘:財務省は国の「負債」だけを強調するが、「資産」を無視している。資産と負債を両方見れば、財政状況の見え方は全く変わる。
- 財政破綻の可能性はゼロに近い:政府と日本銀行を一体として考える「統合政府バランスシート」で見れば、日本の純粋な借金はほとんどなく、財政は極めて健全である。
- 財務省の真の目的は「省益の拡大」:財務省が財政危機を煽り増税を目指すのは、国の未来を憂いているからではなく、予算の采配権を強めて省庁としての権力を維持し、天下り先を確保するためである。
- 財政再建の鍵は「経済成長」:増税は経済を冷え込ませるだけで、財政再建にはつながらない。本当に財政を健全化する唯一の方法は、経済を成長させて税収を自然に増やすことである。
はじめに:「日本の借金1200兆円」という神話の終わり
「国の借金が過去最高を更新し、1200兆円を突破。国民一人当たり約1000万円の借金に――」
このようなニュースを見聞きするたびに、「この国は大丈夫なのだろうか」「将来、とんでもない増税が待っているのではないか」と不安に感じるビジネスパーソンは多いのではないでしょうか。
私たち国民の間には、いつの間にか「日本は世界一の借金大国であり、財政は破綻寸前だ」という共通認識が刷り込まれています。そして、その解決策は「痛みを伴う増税や社会保障費の削減しかない」と、半ば諦めにも似た空気感が漂っています。
しかし、もしその「常識」が、ある特定の組織の利益のために意図的に作られた「偽りの物語」だとしたら、あなたはどう思いますか?
今回ご紹介する、元財務官僚であり、内閣官房参与も務めた数量政策学者の髙橋洋一氏による著書『財務省、偽りの代償 国家財政は破綻しない』は、まさにこの日本社会を覆う重苦しい「財政破綻神話」に真っ向から異を唱える一冊です。
本書は、財務省がひた隠しにする不都合な真実を、会計学と金融工学の専門知識、そして内部にいたからこそ知り得るリアルな情報に基づいて、白日の下に晒していきます。
この記事では、本書『財務省、偽りの代償』の内容を紐解きながら、以下の3つのポイントを中心に、日本の財政の真実を明らかにしていきます。
- なぜ「国家財政は破綻しない」と断言できるのか?
- 財務省はなぜ「財政破綻」を煽り続けるのか?
- 財務省の「偽り」から日本を救う処方箋とは?
「難しそう…」と感じる必要はありません。本書のロジックは非常に明快であり、この記事を読めば、経済ニュースの見方が180度変わるはずです。
なぜ「国家財政は破綻しない」と言い切れるのか? 財務省のトリックを見破る2つの視点
髙橋氏が「国家財政は破綻しない」と断言する根拠は、決して精神論や希望的観測ではありません。それは、会計学の基本に立ち返れば誰でも理解できる、極めて論理的な結論なのです。
トリックその1:「ワニの口」と「国の借金」報道のカラクリ
財務省が財政危機を説明する際、必ずと言っていいほど持ち出してくるのが、国の歳出(支出)と税収(収入)の差が大きく開いていく様子を「ワニの口」に例えたグラフです。
これまで歳出は一貫して伸び続けている一方、税収はバブル経済が崩壊した1990年度を境に伸び悩み、その差はワニの口のように開いた。また、その差は借金である公債の発行で穴埋めされてきた。
(本書『財務省、偽りの代償』より)
このグラフや、「国の借金1200兆円」という報道に触れると、多くの人は「こんなに借金が増え続けているのだから、いつか破綻するに違いない」と考えてしまいます。
しかし、本書はここに財務省の巧妙なトリックが隠されていると指摘します。
髙橋氏によれば、この議論は企業会計で言えば、会社の「負債」の額だけを見て「この会社は倒産する!」と騒いでいるのと同じだというのです。
企業の経営状態を正しく判断するには、負債だけでなく、どれだけの現金や不動産、子会社の株式といった「資産」を持っているかを合わせて見るのが常識です。つまり、バランスシート(BS)全体を見なければ、その企業の本当の財政状況は分かりません。
これは国家財政でも全く同じです。財務省は「国の借金」という負債サイドばかりを強調しますが、日本政府が保有する莫大な「資産」についてはほとんど触れません。
BSの話をしているのに、一部の借金だけをピックアップして「金利が上昇したら大変だ」と騒ぐが、それだけ資産もたくさんあるのだ。だから金利が多少上がったとしても、BS上は大した問題ではない。
(本書『財務省、偽りの代償』より)
髙橋氏が小泉政権時代に作成を主導した政府のバランスシートによれば、日本政府は巨額の負債を抱える一方で、それを上回るほどの資産を保有しており、資産から負債を差し引いた「純資産」はプラスである、というのが本書の指摘です。
最重要ポイント:政府と日銀を一体で考える「統合政府バランスシート」
さらに本書が核心として挙げるのが、「統合政府バランスシート」という考え方です。
これは、政府と中央銀行である日本銀行を「親会社と子会社」のように一体のものとして連結決算するという、経済学ではごく当たり前の分析手法です。
なぜこれが重要なのでしょうか。
現在、ニュースで報じられる「国の借金」の正体は、その大半が「国債」です。そして、その国債の約半分を誰が保有しているかというと、日本銀行なのです。
異次元の金融緩和策によって、日銀は市場から大量の国債を買い入れ続けています。
考えてみてください。子会社(日銀)が親会社(政府)の借金(国債)を大量に持っている。これを連結決算すればどうなるでしょうか? 親子間の貸し借りは、会計上「相殺」されます。
つまり、日銀が保有している国債は、統合政府という大きな括りで見れば「ない」のも同然なのです。
日銀を連結すれば、ざっくりいうと資産1500兆円、負債は国債1500兆円、銀行券500兆円となる。銀行券は無利子無償還で形式上は負債だが実質上は負債ではない。だから日本の財政は危機ではない。
(本書『財務省、偽りの代償』より)
この「統合政府」という視点に立てば、日本の財政は危機的状況どころか、むしろ世界的に見ても極めて健全である、というのが髙橋氏の結論です。金融工学の観点から見ても、日本が今後5年以内に財政破綻する確率は1%にも満たないと本書は指摘しています。
財務省はなぜ「財政破綻」を煽り続けるのか?その裏にある3つの真の狙い
国家財政が実際には破綻する可能性が極めて低いにもかかわらず、なぜ財務省はこれほどまでに「財政破綻論」を国民に刷り込もうとするのでしょうか。
本書は、その動機を「国を思う憂国の士」といった綺麗な言葉ではなく、官僚組織特有の「省益第一主義」にあると喝破します。
狙い1:増税による「歳出権」の強化
財務省の力の源泉は、各省庁の予算を査定し、配分する「予算編成権」にあります。
もし経済が順調に成長して税収が自然に増えれば、国民も企業も喜びますが、財務省にとってはあまり面白くありません。誰も財務省に「おかげさまで」と感謝しないからです。
しかし、「財政危機」を理由に消費税などの増税を行えば、どうでしょうか。
増税によって得られた財源は、財務省が采配を振るって各省庁に配分することになります。すると、予算を付けてもらった省庁は、財務省に対して「貸し」ができます。
増税すれば実質的に予算が膨らみ、経済成長による税収増加分も、増税を決めた財務省のおかげということになる。それにより予算配分のとき、財務省は各省庁に恩を着せることができるというわけだ。
(本書『財務省、偽りの代償』より)
つまり、財務省にとって増税とは、霞が関における自らの影響力(歳出権)を強化するための最も有効な手段なのです。
狙い2:「天下り先」の確保と利権の温存
各省庁に恩を売ることで、財務省は何を得るのか。本書が鋭く指摘するのが「天下りポスト」の確保です。
恩を受けた省庁は、その見返りとして、所管する独立行政法人や特殊法人、関連企業などに、財務省OBの再就職先を用意します。
また、政府が保有する資産(子会社への出資金や貸付金など)を売却すれば、国の借金を減らすことができますが、財務省はこれを頑なに拒みます。なぜなら、その資産の多くは官僚たちの重要な天下り先になっているからです。
政府資産の大半は金融資産で天下りに使われている。資産を売却して天下り先が減れば、官僚の再就職先がなくなり人生設計に狂いが生じる。だから「資産は売れない」と異を唱えているというわけだ。
(本書『財務省、偽りの代償』より)
たばこ税を取り仕切り、JT(日本たばこ産業)に歴代の財務次官が天下っている構図や、UR都市機構が民営化されずに温存されている実態など、本書には省益と天下りがいかに国民生活に影響を及ぼしているかの具体例が満載です。
狙い3:岸田政権下での「増税路線」の復活
本書は、岸田政権の誕生が、財務省にとって「30年ぶりに我が世の春が来た」ようなものだと分析しています。
その理由は、岸田首相の家系にあります。叔父は元大蔵省証券局長、義理の弟は元国税庁長官というように、岸田家は財務省と非常に深い閨閥(けいばつ)関係にあります。
さらに、岸田首相が会長を務める自民党の派閥「宏池会」は、歴史的に池田勇人元首相や宮澤喜一元首相など、大蔵官僚出身の総理大臣を多く輩出してきました。そのため、宏池会は「財務省の化身」とも言えるほど、緊縮財政・増税を志向する派閥なのです。
財務官僚から見れば、宏池会というのは「俺たちの居場所」ということになる。
(本書『財務省、偽りの代償』より)
安倍・菅政権時代は、リフレ派の髙橋氏のような人物が官邸に入り、財務省の緊縮路線にブレーキをかけていました。しかし、財務省と関係の深い岸田政権になったことで、財務省は息を吹き返し、「金融所得課税の強化」や「プライマリーバランスの黒字化目標堅持」といった、増税への布石を着々と打ち始めていると本書は警鐘を鳴らしています。
財務省の「偽り」から日本を救う処方箋とは?
では、私たちはこの財務省という強大な権力にどう立ち向かえば良いのでしょうか。本書は、日本の財政を真に健全化し、経済を成長軌道に乗せるための具体的な処方箋を提示しています。
解決策1:財務省を解体せよ!「歳入庁」の設立
髙橋氏が最も強力な解決策として提言するのが、財務省の組織解体です。
具体的には、税金の徴収を担当する「国税庁」を財務省から分離・独立させ、さらに年金保険料の徴収を行う「日本年金機構」と統合して、「歳入庁」という新しい組織を設立することです。
世界を見渡しても、日本の財務省のように企画部門(予算編成)と執行部門(徴税)が一体のケースはきわめて珍しい。言い換えれば非常識なのだ。
(本書『財務省、偽りの代償』より)
現在、国税庁のトップは財務省キャリアの指定席となっており、完全に財務省の「植民地」と化しています。これにより、財務省は税務調査という強大な権力を背景に、政治家やメディアに絶大な影響力を行使しています。
この強すぎる権力を解体し、税と社会保険料の徴収を効率化・公平化するために、歳入庁の設立が不可欠だと髙橋氏は主張します。これにより、保険料の徴収漏れが減るだけで、消費増税に頼らずとも社会保障の財源を確保できる可能性があるのです。
解決策2:財政再建の答えは「増税」ではなく「経済成長」
本書が一貫して訴えているのは、財政再建は経済成長によってのみ達成できるということです。
財務省は「国の借金を返すために増税が必要だ」と主張しますが、これは全くの逆です。
増税と財政再建に明確な因果関係はない。むしろ増税は経済成長を阻害し、財政再建の障害にすらなる。
(本書『財務省、偽りの代償』より)
消費増税を行えば、消費が冷え込み、企業の投資意欲も減退し、結果として経済は縮小します。経済が縮小すれば、当然ながら税収は減り、財政はさらに悪化するという悪循環に陥ります。これは、過去の消費増税後の経済指標が如実に物語っています。
本当に財政を健全化したいのであれば、やるべきことはただ一つ。減税や規制緩和、そして大胆な財政出動によってデフレから完全に脱却し、経済を成長させることです。経済が成長すれば、企業の収益も個人の所得も増え、税収は自然と増加していきます。
「プライマリーバランス黒字化」という財務省が掲げる目標に固執するのではなく、まずは経済を大きくすること。それが結果的に財政再建への最も確実な道筋なのです。
まとめ:経済ニュースの「裏」を読むための必読書
髙橋洋一氏の『財務省、偽りの代償』は、単なる経済解説書ではありません。それは、日本の未来を左右する「財政」というテーマを巡る、財務省という巨大官庁と、真実を伝えようとする人々との「情報戦」の内幕を暴いた告発の書です。
本書を読むことで、私たちは以下の重要な視点を得ることができます。
- データの一部だけを切り取った報道に騙されない批判的思考力
- 「統合政府」という、国家財政の全体像を捉えるためのフレームワーク
- 政策の裏にある官僚組織の力学や利害関係を読み解く洞察力
日々のニュースに流され、漠然とした将来不安を抱えるのではなく、FACT(事実)に基づいて自ら考え、判断する。これからの時代を生き抜くビジネスパーソンにとって、これほど重要なスキルはありません。
本書は、そのための最強の武器となる一冊です。ぜひ手に取って、日本の財政にまつわる「偽りの代償」の正体をご自身の目で確かめてみてください。