自己啓発
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『東大卒プロゲーマー 論理は結局、情熱にかなわない』- 合理性の罠にハマるビジネスパーソンへ

ヒガマツコ

著者: ときど

本書『東大卒プロゲーマー 論理は結局、情熱にかなわない』は、世界的プロゲーマーであるときど(谷口一)氏が、自身の半生を赤裸々に綴った一冊です。しかし、これは単なる自伝やゲーム攻略本ではありません。

「東大卒」という輝かしい経歴を持ちながら、なぜ「プロゲーマー」という異色の道を選んだのか。その根底には、 「合理性や効率こそが成功への近道」という価値観の崩壊と、「情熱」という抗いがたい力への気づき がありました。

この記事では、本書の中から特に忙しいビジネスパーソンに響くであろうエッセンスを抽出し、キャリア形成、目標達成、そして仕事への向き合い方について、新たな視点を提供します。合理性の限界を感じている方、仕事への情熱を見失いかけている方にとって、必ずや道しるべとなるでしょう。

本書の要点

  • 合理性と効率の限界: 論理的に最適解を導き出す能力は強力な武器だが、それだけでは乗り越えられない壁が存在し、80点の先には進めない。
  • 情熱の圧倒的な力: 人を動かし、困難な状況を打開する原動力は、論理ではなく「情熱」である。情熱は周囲に伝播し、協力者を生み出す。
  • 挫折は進化の起爆剤: 手痛い失敗や挫折こそが、自分自身の価値観を見つめ直し、新たな成長フェーズへと移行するための重要な転機となる。
  • 「面白い」は「強い」: 勝利至上主義が行き詰まったとき、セオリーから外れた「面白さ」や「楽しむ心」が、新たな強さや進化の扉を開く鍵となる。
  • コミュニティが成長を加速させる: 個人の力には限界がある。ライバルや仲間と情報を共有し、切磋琢磨する「いい人」であることこそが、一人では到達できない高みへと導く。

はじめに:「東大まで出て、なぜプロゲーマーなのか」

「東大卒のプロゲーマー」

この異色の肩書きを持つ人物が、本書の著者、ときど(谷口一)氏です。世界のゲーム大会における優勝回数は世界一。輝かしい実績を持つ彼は、かつて「格ゲー界のスーパーコンピューター」と呼ばれていました。

そのプレイスタイルは、徹底的に合理性を追求し、勝利への最短距離を突き進むというもの。感情を排し、理論に基づいたプレイで相手を圧倒する姿から、「アイス・エイジ」という異名までつけられました。

多くのビジネスパーソンが日々の業務で追求するであろう「効率化」や「合理性」。ときど氏は、それを勝負の世界で極限まで突き詰めた人物と言えるでしょう。

しかし、本書のタイトルは『論理は結局、情熱にかなわない』です。

一見すると、彼のプレイスタイルとは矛盾しているように思えます。なぜ、彼は最大の武器であったはずの「論理」や「効率」を、最終的に「情熱」の下に置いたのでしょうか。

「東大まで出て、なぜプロゲーマーなのか?」

これまで幾度となく投げかけられてきたこの問いに、ときど氏は本書で初めて真正面から答えています。その答えは、順風満帆に見えた彼のキャリアの裏に隠された、 手痛い失敗と人生の暗黒時代 、そしてそこからの再生の物語にありました。

この記事では、彼の経験から、私たちビジネスパーソンが自身のキャリアや仕事への向き合い方を見つめ直すためのヒントを探っていきます。

「ゲームが僕に授けてくれたもの」- 成功体験を支えた論理的思考

ときど氏が、自身の武器である「論理的思考」の礎を築いたのは、意外にも幼少期から没頭していた格闘ゲームの世界でした。

受験とゲームの驚くべき共通点

東大受験を控えた高校時代、彼はゲームに没頭する毎日を送っていました。しかし、驚くべきことに、彼は「ゲームをしていたから東大に合格できた」と分析しています。

つまり、自分がやらなければいけないことを絞り込み、それを徹底的に反復練習する。その感覚はゲームも受験も同じなのだった。

格闘ゲームで強くなるためには、まず膨大なデータが載った「ムック本」を読み込み、キャラクターの特性や技の性能をインプットします。そして、無数の対戦相手の中から、特定のライバル(例えばウメハラ選手)に勝つためだけの「対策」を練り、それを徹底的に反復練習する。

これは、 「東大」という明確なゴールに対し、過去問を徹底的に研究し、出題傾向に合わせた対策を繰り返す受験勉強のプロセスと全く同じ だったのです。多くの受験生が不安から様々な参考書に手を出す中、彼はゲームで培った「目的達成のために不要なものを切り捨てる」思考で、東大対策だけに集中し、合格を勝ち取りました。

研究で開花した「ゲーム式」思考法

この「ゲームで培った思考法」は、大学での研究活動でさらにその真価を発揮します。

大学4年生の時、恩師との出会いをきっかけに研究に没頭したときど氏は、1年間で国際的な学会で賞を受賞するほどの成果を上げます。彼自身、その成功の要因は「ゲームに没頭した日々があるからこそ」だと断言しています。

  1. 知識入れと課題発見: 過去の論文を読み漁り、既存の研究成果(=レゴブロック)をどう組み合わせれば新しい発見に繋がるか仮説を立てる。
  2. 最短距離で成果をつかむ: 膨大な実験条件の中から、最適解を見つけるために「効率的なしらみつぶし」を行う。一つの要因だけを変化させて因果関係を特定し、無駄な実験を省く。
  3. 偶然を見逃さない: 実験中に起きた想定外のデータ(=バグ)を単なるミスで終わらせず、「なぜ起きたのか」を徹底的に探求し、新たな発見(=新テクニック)に繋げる。

これらのプロセスは、彼が格闘ゲームでトップに上り詰めるために無意識に行っていたことそのものでした。 ビジネスの世界においても、情報収集、課題設定、効率的なPDCAサイクル、そしてセレンディピティを掴む力は、成功に不可欠な要素 でしょう。

ときど氏の経験は、 「何かに真剣に取り組むと、たとえそれがゲームであっても、成功するための『型』が身につき、全く別の分野に応用できる」 という普遍的な真理を教えてくれます。

論理の崩壊 – 「情熱なき成功には意味がない」

「ゲーム式」思考法を武器に、研究者としても輝かしい成果を上げたときど氏。しかし、彼の人生はここで暗転します。彼自身が「人生の暗黒時代」と呼ぶ、壮絶な挫折が待ち受けていました。

たった一度の失敗がすべてを奪った

大学院進学の際、彼は希望の研究室に入るための入学試験で、まさかの失敗を犯します。研究に没頭するあまり、試験勉強への準備が甘かったのです。

待て待て、誰よりも研究に打ち込み成果も出した僕が、もう研究させてもらえない?
研究に没頭するあまり、もっとできたはずの試験勉強がそこそこになっていたことは認めるが、でも、これはあんまりじゃないか?

彼の研究実績や情熱は一切評価されず、テストの点数という冷徹な「論理」だけが彼の未来を決定しました。彼を研究の道へと導いてくれた恩師Sさんとも、袂を分かつことになります。

希望の研究室に入れず、何より情熱の火を灯してくれた恩師を失った彼は、新しい研究室で全く成果を出せなくなります。

なぜ頑張れなかったのか。なぜしがみつけなかったのか。理由は明らかだった。Sさんがいなかったからだ。僕はもともと、Sさんの情熱に当てられて研究に没頭しはじめた。Sさんという火の元がなくなれば、僕の情熱も消える。

彼は、 自分の合理性や論理的思考が、「情熱」という土台の上で初めて機能する ことに、この時まだ気づいていませんでした。情熱を注ぐ対象と、それを共有できる仲間を失った彼は、完全に燃え尽き、「生ける屍」のように大学院での日々を過ごすことになります。

「死体」になった彼が見つけた恐ろしい答え

何も手につかない日々の中、彼は孤独な自問自答を続けます。そして、一つの恐ろしい答えにたどり着きました。

・結局、僕は、自分の頭でしっかり物事を考えてこなかったのだと思う。
・むしろ僕は、「考えないため」「悩まないため」の行動をとっていたのではないか。
・ひとつのことにとことん没頭する僕の性格も、「没頭すればそれ以外のことを考えずに済む」というメリットをにらんでのことではなかったか。

ゲームに没頭していれば、将来の悩みから目を背けられた。父親に勧められるままに東大を目指せば、進路の葛藤はなかった。研究に没頭すれば、複雑な人間関係を考えずに済んだ。

彼の「合理性」や「効率性」は、実は 「悩まないで済むから」という、ある種の思考停止に支えられていた のです。

没頭できる対象を失ったとき、それまで見ないふりをしてきた「自分はこれからどう生きるのか」という根源的な問いが一気に彼に襲いかかりました。この経験は、多くのビジネスパーソンにとっても他人事ではないでしょう。日々の業務に追われ、目の前のタスクを効率的にこなすことに没頭するあまり、 「自分は本当にこの仕事に情熱を注げているのか?」 という問いから目を背けてはいないでしょうか。

ときど氏の暗黒時代は、論理や効率だけを追い求めた先にある、空虚な未来を私たちに突きつけます。

プロゲーマーへの決意 – 「そこは熱い場所か?」

「生ける屍」と化したときど氏が、再生の道を模索する中でたどり着いたのが、 「公務員」という安定した道と、「プロゲーマー」という未知の道 でした。

ウメハラが灯した小さな火

自信を完全に失っていた彼は、当初、安定を求めて公務員を目指します。しかし、心のどこかで燻る思いがありました。その頃、日本初のプロゲーマーとして活動を開始していた伝説のプレイヤー「ウメハラ」こと梅原大吾氏に話を聞いてみたい、と。

ウメハラ氏は、世間の道理を踏まえた上で、最後にこう告げます。

「本当に好きなことなら、チャレンジしてみるのも悪くないと思うよ。1回しかない人生なんだから」

この言葉は、彼の心に深く突き刺さりました。公務員の採用試験を楽々と勝ち進む一方で、彼はそこに「情熱」を見出すことができませんでした。

一緒に面接を受けた学生たちを見て、「この人たちと働くことになるのか」と思うと暗澹たる気持ちになった。彼らは、望んでその場に来ているようには、とても見えなかった。
(中略)
「これは、僕は勤めても、当分は死体だな」という感想だった。

彼は、自分が情熱を燃やせる場所、熱い人間がいる世界を求めていることに気づきます。大学の制度に絶望した彼にとって、まだルールさえ確立されていないゲームの世界は、 自分で制度を作り出せる可能性に満ちたフロンティア に見えました。

論理を捨て、情熱を選んだ日

最終的に、海外企業からのプロ契約のオファーをきっかけに、彼は決断します。周囲のほとんどが反対する中、公務員の内定を辞退し、プロゲーマーの道を選んだのです。

情熱に浮かされ生を燃やす快感を知った僕は、もう情熱の芽のない場所では生きていけないのだ。「心」の声を無視して無理やり適合しようとしても、生ける屍に逆戻りする。

この決断の根底にあったのは、「どちらが論理的に正しいか」ではありませんでした。 「どちらが自分の心を燃やしてくれるか」 、ただその一点でした。

私たちはキャリアの岐路に立ったとき、安定性、給与、世間体といった「論理的」な指標で判断を下しがちです。しかし、ときど氏の選択は、 「そこは熱い場所か?」 という問いこそが、人生を豊かにする上で最も重要であることを示唆しています。

「強いけど、つまらない」からの脱却 – 80点の壁を越えるために

プロゲーマーとして再出発したときど氏でしたが、再び大きな壁にぶつかります。それは、彼が信奉してきた「合理的な勝ち方」そのものの限界でした。

勝利至上主義の行き詰まり

プロの世界では、かつてのように圧倒的な勝利を収めることが難しくなっていました。特にトッププレイヤーとの対戦では、肝心なところで敗北を喫することが増えていきます。

決定打となったのが、プロゲーマー「ももち」選手との一戦です。序盤、6対1と圧倒的にリードしながら、彼はそこから大逆転負けを喫します。

彼の戦い方は、 「完璧な『勝ちパターン(公式)』を編み出し、それを相手に押し付ける」 というものでした。しかし、ももち選手は、その公式を徹底的に研究し、公式が通用しなくなった後の「次の展開」まで準備していたのです。引き出しの少ないときど氏は、なすすべなく敗れ去りました。

ゲーム仲間から囁かれていた言葉が、彼の胸に突き刺さります。
「ときどは、強いけど、つまらない」

彼の戦いは、まるでマシンのように淡々とタスクを処理するだけで、そこに意外性やドラマがなかったのです。

「面白い」と「強い」は繋がっている

この手痛い敗北をきっかけに、彼は自分のスタイルを根本から見直すことになります。そして、ウメハラ選手との練習を通じて、衝撃的な事実に気づかされます。

タスク処理のごとく合理化・効率化に励んできた僕が、「これもムダ、あれもムダ」といって切り捨ててきた膨大な選択肢のなかから、ウメハラさんはダイヤモンドを見つけ出してくる。

ウメハラ選手やももち選手は、 セオリーから外れた「面白い」プレイの中に、勝利に繋がる新たな可能性を見出していた のです。それは、効率だけを求めるマニュアル化されたプレイからは決して生まれない、予測不能な強さでした。

ときど氏は、80点までは誰よりも速く到達できる自分のやり方に、限界があったことを認めます。

80点までは要領よくやればパパッといけるのだが、85点、90点にまでもっていくとなると、並大抵でなくなる。(中略)僕は、80点を85点にする努力を怠ってきたのだと思う。

ビジネスにおいても、既存のフレームワークや成功体験に固執しているだけでは、いずれ頭打ちになります。80点の先にある未踏の領域へ足を踏み入れるには、 効率やセオリーから一歩踏み出し、「遊び」や「面白さ」といった要素を取り入れる勇気 が必要なのかもしれません。

彼は、勝ちたいという純粋な思いから、リスクを恐れず新たな技に挑戦し、楽しむ心を取り戻していきます。その結果、彼のプレイは深みを増し、以前よりもさらに高いレベルへと進化を遂げたのです。

結論:「いい人」だけが勝てる世界がある

本書の最終章で、ときど氏は驚くべき結論を提示します。それは、 「本当に強いプレイヤーは、みな『いい人』」 であり、 「格ゲーとは、取り組む姿勢が正しい人間が勝つ世界なのだ」 というものです。

これは一体どういうことでしょうか。

格闘ゲームは個人競技に見えますが、その強さはコミュニティによって支えられています。

強くなるためには、みんなと協力したほうがいいことを知っている」からだ。誰よりも強くなりたいからこそ、僕たちは協力しあっている。

練習仲間とオフラインで集まり、リアルタイムで意見交換をしながら互いのプレイを検証する。たとえ大会で戦うライバルであっても、強くなるためにお互いの手の内を明かし、情報を共有する。この切磋琢磨の文化こそが、日本の格ゲープレイヤー全体のレベルを押し上げているのです。

他人のアドバイスに素直に耳を傾けられるか。自分より格下の相手にも敬意を払えるか。そうした人間性が、結果的に得られる情報の質と量を左右し、強さに直結する。逆に、傲慢で人望のないプレイヤーは、有益な情報から遮断され、いずれ成長が止まってしまう。

これは、ビジネスの世界にもそのまま当てはまります。 一人で成し遂げられることには限界があり、社内外のネットワークを築き、他者と協力できる「いい人」であること が、長期的な成功の鍵を握るのです。

ときど氏の物語は、合理性や効率性を突き詰めた一人の天才が、挫折を経て「情熱」の価値に目覚め、最後には「人間性」や「協調性」という普遍的な真理にたどり着く、壮大な旅路でした。

もしあなたが今、仕事に情熱を見出せず、日々のタスクを論理と効率だけでこなしていると感じるなら、一度立ち止まって自問してみてください。

「そこは、熱い場所か?」
「自分は、80点の先を目指せているか?」
「共に高め合える仲間はいるか?」

その答えの先に、あなたのキャリアを、そして人生を、より豊かにするヒントが隠されているはずです。本書は、そのための力強い一歩を踏み出す勇気を与えてくれるでしょう。

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ABOUT ME
ブックロウ
ブックロウ
王立図書館の司書
はじめまして、管理人の「ブックロウ」です。まるで物語に出てくるフクロウのように、夜な夜な本を読みふけるのが私のライフワーク。特に、仕事や人生のヒントが詰まったビジネス書・自己啓発書には目がありません。「本を読む時間はないけど、知識はアップデートしたい…」そんな悩めるあなたの為に、私が代わりに本を読み、明日からすぐ使える実践的なポイントや成功のエッセンスを分かりやすく解説します。千葉県東松戸のカフェでこのブログを書いていることが多いので、もし見かけたら気軽に声をかけてくださいね。皆さんの自己成長をサポートできることを、心から楽しみにしています。
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